映画祭とは? その意味や歴史、主要な映画祭を解説
映画祭とは、年に一度など定期的に、特定期間にコンペティション形式もしくは特集形式で様々な映画作品を集めて一つの街や地域で上映し、表彰などを行う映画イベントです。
有名な映画祭には世界中から優秀な映画作品が集まり、映画業界を牽引する存在となっています。また、映画ファンや映画関係者にとっては、映画の新たな出会いや発見の場として、重要なイベントです。
この記事では、世界三大映画祭などの映画祭の歴史や種類を解説し、主要な映画祭を一覧表にまとめています。
世界三大映画祭とは
世界三大映画祭とは、フランスのカンヌ国際映画祭、イタリアのヴェネツィア国際映画祭、ドイツのベルリン国際映画祭の3つの映画祭を指します。いずれも歴史と権威があり、世界中の映画人から憧れの存在となっています。
世界三大映画祭は、映画ファンや映画関係者にとって、最も注目される映画祭です。これらの映画祭で受賞することは、映画監督や俳優にとって大きな栄誉であり、その後の活躍に大きな影響を与えることになります。
世界三大映画祭に、北アメリカで行われるトロント国際映画祭とサンダンス映画祭を加えて「ビッグ・ファイブ/Big Five」と呼ぶこともあります。
世界三大映画祭の国は?
世界三大映画祭が開催される国は、フランス、イタリア、ドイツです。
カンヌ国際映画祭は、フランス南部の都市カンヌで毎年5月に開催される映画祭です。1946年に第1回が開催され、世界三大映画祭のひとつとして最も権威のある映画祭とされています。
ヴェネツィア国際映画祭は、イタリアのヴェネツィアで毎年8月末から9月にかけて開催される映画祭です。1932年に第1回が開催され、世界最古の映画祭としても知られています。
ベルリン国際映画祭は、ドイツのベルリンで毎年2月に開催される映画祭です。1951年に第1回が開催され、世界三大映画祭のひとつとして、芸術性と商業性を兼ね備えた映画作品を評価する映画祭として知られています。
世界三大映画祭の最高賞は?
カンヌ国際映画祭の最高賞は「パルム・ドール」で、金のパーム型のトロフィーが授与されます。日本映画でパルム・ドールを受賞した作品は『地獄門』、『影武者』、『楢山節考』、『うなぎ』、『万引き家族』です。
ヴェネツィア国際映画祭の最高賞は「金獅子賞」で、金の獅子型のトロフィーが授与されます。日本映画で金獅子賞を受賞したのは、『羅生門』、『無法松の一生』、『HANA-BI』です。
ベルリン国際映画祭の最高賞は「金熊賞」で、金の熊型のトロフィーが授与されます。日本映画で金熊賞を受賞したのは、『武士道残酷物語』、『千と千尋の神隠し』です。
映画祭の歴史
世界三大映画祭の誕生
ヴェネツィア国際映画祭
世界最初の映画祭は、1932年に開催されたヴェネツィア国際映画祭です。当時イタリアでは映画に対する一般的関心が高く、人びとが文化スポーツ関連のイベントで支払うお金の大半は、映画でした。
ところが、上映される映画の大半はアメリカ映画であったため、政府と映画産業はイタリア文化を振興する必要性を痛感します。
こうして1932年に、イタリアの富豪で政治家でもあったジュゼッペ・ヴォルピを会長として、ヴェネツィア国際映画祭が初めて開催されました。ヴォルピは熱烈なファシストで、ムソリーニ政権の財務大臣も務めています。
第1回のヴェネツィア国際映画祭は、1932年8月6日にアメリカ映画『ジキル博士とハイド氏』で幕を開け、9カ国が参加して8月21日まで開催されました。
カンヌ国際映画祭
ヨーロッパで政治的対立が激しくなってくると、映画産業にも影響が及ぶようになります。1937年のヴェネツィア国際映画祭では、ムソリーニがフランス映画『大いなる幻影』の受賞を妨げるために介入しています。1938年にはナチス・ドイツのヒトラーまでヴェネツィア国際映画祭に介入するようになり、自由主義の国々では反発が高まりました。
そこで1939年に、イタリア国境に近い南仏の保養地コート・ダジュールの街カンヌで、新しい映画祭が開催されることになりました。
この新しい映画祭は、「国際映画祭」という名称で、1939年8月31日にアメリカ映画『ノートルダムの傴僂男』で幕を開けます。しかし、翌日9月1日にドイツがポーランドに侵攻し、9月3日にイギリスとフランスがドイツに宣戦布告したため、この映画祭は中止となってしまいました。
第2次世界大戦が終了した翌年、1946年に、この映画祭は「カンヌ国際映画祭」の名称で復活します。第1回は1946年9月20日から10月5日まで、21カ国が参加して開催されました。
ベルリン国際映画祭
ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭と並んで「三大国際映画祭」にあげられるベルリン国際映画祭が誕生した経緯も政治的なものでした。
1940年代末、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連(ロシア)に分割占領されたドイツの首都ベルリンでは、ベルリン封鎖などで冷戦が最高潮に達していました。
1950年に連合国高等弁務官理事会のアメリカの情報局は、ソ連に対抗するためベルリンで映画祭を開催することを提案します。
こうしてベルリン国際映画祭は、アメリカの軍政当局から資金的援助を受けて開催されることになりました。第1回は1951年6月6日にベルリン南西部シュテーグリッツにあるティタニアパラストにおける『レベッカ』の上映で幕を開け、オリンピック競技場の近くにある野外劇場ヴァルトビューネも使って6月17日まで行われました。
インディペンデント映画祭の勃興
1960年代以降、大手映画会社による商業映画の隆盛に対抗して、インディペンデント映画の動きが活発化しました。このような大手映画会社以外の独立した映画会社が製作する作品に上映のチャンスを与える映画祭の動きは、それ以前から存在しています。
最も歴史あるインディペンデント映画祭は、1947年に創設されたエディンバラ国際映画祭です。
1972年に創設されたロッテルダム国際映画祭も、インディペンデント映画を多く紹介しています。
北アメリカでは、1978年に創設されたサンダンス映画祭が有名です。この映画祭は、ケヴィン・スミス、ロバート・ロドリゲス、クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、デイミアン・チャゼルなどの映画監督の知名度を上げたことでも知られています。
21世紀に創設された映画祭では、アメリカ同時多発テロ事件の後、ニューヨークの復興を願ってロバート・デ・ニーロたちが創設したトライベッカ映画祭が、特にインディペンデント映画を幅広い観客に届けることを理念に掲げています。
テーマ別の映画祭の普及
毎年製作される映画の数が増えて多様化したことに伴い、ジャンルやテーマに特化した映画祭のニーズも増えました。
ファンタスティック映画祭やドキュメンタリー映画祭、女性映画祭など、さまざまなテーマの映画祭が開催されており、映画ファンの幅広いニーズに対応しています。
歴史あるテーマ別の映画祭としては、1968年に創設されたシッチェス・カタロニア国際映画祭があげられます。
シッチェス・カタロニア国際映画祭はファンタジー映画やホラー映画に特化した映画祭です。ベルギー・ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭、ポルトガル・ポルト国際映画祭と並ぶ世界三大ファンタスティック映画祭のなかで、最も長い歴史を誇っています。
映画祭の種類
映画祭には、大きく分けて以下の3種類があります。国際映画祭
世界各国から映画が集まり、コンペティション形式で優秀作品が選出される映画祭です。
狭義には、「国際映画製作者連盟/FIAPF」の規約に則り、公認を受けた映画祭を指します。
世界三大映画祭と呼ばれるカンヌ国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭、ベルリン国際映画祭が有名です。
インディペンデント映画祭
大手映画会社の製作ではない、独立系の映画が上映される映画祭です。商業主義や権威主義に縛られない、自由で個性的な作品が多く上映されます。
世界三大映画祭とともに「ビッグ・ファイブ」にあげられる、サンダンス映画祭が有名です。
テーマ別の映画祭
特定のジャンルやテーマに特化した映画祭です。ファンタスティック映画祭、ドキュメンタリー映画祭、女性映画祭など、さまざまなテーマの映画祭が開催されています。
ホラー、サスペンス、SFを対象とする、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭や、英国映画協会(BFI)が主催するBFIフレア ロンドンLGBTIQ+映画祭などが有名です。
主な国際映画祭の一覧
以下では、世界の主な国際映画祭を50音順の一覧表でまとめています。
映画祭名 | 開催地 | 開催期間 | 備考 |
---|---|---|---|
ヴェネツィア国際映画祭 | イタリア・ヴェネツィア | 毎年8月末から9月 | 世界最古の映画祭。 |
エディンバラ国際映画祭 | イギリス・エディンバラ | 毎年8月 | インディペンデント映画の祭典。 |
カンヌ国際映画祭 | フランス・カンヌ | 毎年5月 | 世界三大映画祭のひとつ。 |
サンダンス映画祭 | アメリカ・ユタ州パークシティ | 毎年1月 | インディペンデント映画の祭典、ビッグ・ファイブのひとつ。 |
シッチェス・カタロニア国際映画祭 | スペイン・シッチェス | 毎年10月 | ホラー、ファンタジー、SFなどのジャンル映画に特化した映画祭。 |
上海国際映画祭 | 中国・上海 | 毎年6月 | FIAPF公認の長編映画祭。 |
東京国際映画祭 | 日本・東京 | 毎年10月 | FIAPF公認の国際映画祭。 |
トロント国際映画祭 | カナダ・トロント | 毎年9月 | ビッグ・ファイブのひとつ。 |
釜山国際映画祭 | 韓国・釜山 | 毎年10月 | アジアの新人監督作品を中心に扱う。 |
ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭 | ベルギー・ブリュッセル | 毎年3月 | ホラー、ファンタジー、SFなどのジャンル映画に特化した映画祭。 |
ベルリン国際映画祭 | ドイツ・ベルリン | 毎年2月 | 世界三大映画祭のひとつ。 |
ポルト国際映画祭 | ポルトガル・ポルト | 毎年6月 | ホラー、ファンタジー、SFなどのジャンル映画に特化した映画祭。 |
モスクワ国際映画祭 | ロシア・モスクワ | 毎年7月 | 2022年、FIAPFの認定が一時停止された。 |
ロカルノ国際映画祭 | スイス・ロカルノ | 毎年8月 | FIAPF公認の国際映画祭。 |
ロッテルダム国際映画祭 | オランダ・ロッテルダム | 毎年1月 | 新人監督を対象とした映画祭。 |
→映画用語集へ戻る