「プロミシング・ヤング・ウーマン」の意味は?
タイトルの「プロミシング・ヤング・ウーマン」は、「将来有望な若い女性」という意味です。
本作の主人公・キャシーや彼女の親友・ニーナは大学医学部で学ぶ「将来有望な若い女性」でした。しかし、ニーナがクラスメートたちに強姦されたことを苦にして自殺したことでキャシーも心に傷を負い、大学を中退してしまいます。
この映画のタイトルは、この事件への学生や大学当局の対応が2人の若い女性の将来を台無しにしてしまったことを暗示しているのです。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の作品情報
『プロミシング・ヤング・ウーマン』は2020年に公開されたアメリカ製作のブラック・コメディ・サスペンス映画。クラスメートにレイプされたことが原因で自殺した親友の復讐に執念を燃やす女性の物語です。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の概要
30歳の誕生日を前に定職にもつかず両親の家で暮らすキャシー(キャリー・マリガン)。彼女の生きがいは、酔ったふりをして女性の弱みにつけ込む男を騙すことです。ある日、彼女の親友をレイプして自殺に追い込んだ男が結婚すると知ったキャシーは、親友の復讐を計画し始めます。
本作の監督・脚本を務めたエメラルド・フェンネルは、テレビや映画に活躍するイギリスの女優で、この映画が長編監督デビューとなります。
『わたしを離さないで』(2010年)で知られるイギリスの女優・キャリー・マリガンが、親友の自殺で生きる喜びを失った主役の女性を好演しました。
- 原題:Promising Young Woman
- 監督・脚本:エメラルド・フェネル
- キャスト:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー
- 公開年:2020年
- 上映時間:1時間53分
- 製作国:アメリカ
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』予告編
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のスタッフ
監督・脚本・製作:エメラルド・フェンネル
エメラルド・フェンネルは1985年生まれ、イギリス出身の女優、作家、脚本家、監督、プロデューサーです。
オックスフォード在学中から舞台に立つフェンネルは、女優としては時代物への出演が多いです。映画ではキイラ・ナイトレイ主演の『アンナ・カレーニナ』(2012年)や『リリーのすべて』(2015年)で脇役を務めています。さらにNetflixのドラマシリーズ『ザ・クラウン』では、チャールズ皇太子の恋人で後に妻となるカミラを演じました。
その一方、フェンネルは作家やプロデューサーとしても活躍しています。2013年には児童書を出版。2018年からはBBCアメリカで放映されているブラック・コメディ・サスペンス・ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』の製作総指揮を務めています。
ちなみに本作でアカデミー監督賞にノミネートされたフェンネルは、イギリス人女性監督として史上初のノミネートとなります。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャスト
ここからは映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のメインキャストをご紹介します。見出しは「役の名前:俳優の名前」の順番です。
カサンドラ・トーマス(キャシー):キャリー・マリガン
本作の主人公・キャシーを演じるキャリー・マリガンは1985年生まれ、イギリス・ロンドン出身の女優です。
両親の反対を押し切って演技の道を選んだ彼女は、『プライドと偏見』(2005年)でキーラ・ナイトレイの妹役で映画デビューを果たしました。ナイトレイとはノーベル賞作家カズオ・イシグロの小説を映像化した『わたしを離さないで』(2010年)でマリガンが主役を務めたときに、再び共演しています。
2009年公開の『17歳の肖像』のジェニー役で、アカデミー賞やゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされました。マリガンは、英国を中心に映画、テレビ、舞台で活躍しています。
ライアン・クーパー:ボー・バーナム
ライアンは、キャシーの大学時代のクラスメートで、今は小児外科医です。少し不器用な性格ですが、キャシーと次第に良い仲になります。
ライアンを演じたボー・バーナムは1990年生まれ、アメリカ出身のコメディアン、ミュージシャンです。2006年3月からユーチューバーとして活躍を始めたバーナムは、2021年3月の時点で再生回数が3億回を上回っています。
ミュージシャンとしてはコメディ・セントラル・レコードからアルバムを3つ出しました。さらにMTVで『Zach Stone Is Gonna Be Famous (原題)』というコメディ番組を製作して主演も務めています。
日本ではあまり見ることのできないバーナム。映画ではコメディ映画『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017年)にスタンダップ・コメディアンの役で出演しています。
マディソン・マクフィー:アリソン・ブリー
マディソンは、大学時代にニーナの事件をみんなに言いふらしたゴシップ大好き女。今では結婚して子どものいる、きちんとした奥さんの顔をしています。
マディソンに扮したアリソン・ブリーは、1982年生まれアメリカ出身の女優です。
2007年からコメディからホラーまで幅広く活躍しているブリー。Netflixで放送していた『GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』のルース ”ゾーヤ・ザ・デストロイヤー”役で記憶している人もいるかもしれません。
スタンリー・トーマス:クランシー・ブラウン
キャシーの父。彼女の親友・ニーナが自殺して以来、彼女が生きる喜びを失っていることを誰よりも心配しています。
キャシーの父親役のクランシー・ブラウンは1959年生まれ、アメリカ出身の俳優。大柄の彼は権威のある人物や悪役として多数の作品に出演してきました。
なかでもホラー映画『ペット・セメタリー2』(1992年)のガス・ギルバート保安官役が高く評価されています。
スーザン・トーマス:ジェニファー・クーリッジ
キャシーの母。キャシーの30歳の誕生日に、いかにも早く家を出ていってほしいと言わんばかりにスーツケースをプレゼントするのはいかがなものかと。
キャシーの母親役のジェニファー・クーリッジは1961年生まれ、アメリカ出身の女優です。コメディを得意とする彼女は、『となりのサインフェルド』、『セックス・アンド・ザ・シティ』、『フレンズ』、『ジョーイ』といったテレビドラマでおなじみです。
映画でも「アメリカン・パイ」シリーズや「キューティ・ブロンド」シリーズの脇役など、主にコメディで活躍しています。
ゲイル:ラバーン・コックス
ゲイルは、キャシーがアルバイトをしているコーヒー店の店主。キャシーと気の合う彼女は、ライアンとキャシーの関係を温かく見守ります。
ゲイルに扮したラバーン・コックスは、1972年生まれアメリカ出身の女優、LGBTQ+社会運動家です。
トランスジェンダー女性であるコックスは、リアリティーショーのコンテスト参加者として芸能活動を開始。
女優としてはNetflixのドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のソフィア・バーセット役で一躍有名になりました。
エリザベス・ウォーカー:コニー・ブリットン
ニーナの事件をもみ消した大学の学部長エリザベス・ウォーカーを演じたのは、1967年生まれ、アメリカ出身の女優・コニー・ブリットンです。
ブリットンはミュージカル・ドラマ・シリーズ『ナッシュビル』などテレビを中心に活躍しています。
映画ではスポーツ・ドラマ映画『プライド 栄光への絆』(2004年)で演じた熱血アメリカン・フットボール・コーチの妻役が有名です。
ジョーダン・グリーン:アルフレッド・モリーナ
ニーナの事件をもみ消したことを後悔する弁護士グリーンを演じるアルフレッド・モリーナは1963年生まれ、イギリス出身の俳優です。
これまで200本以上の映画、テレビ、舞台に出演したというモリーナ。『17歳の肖像』(2009年)では、キャリー・マリガンの父親役でマリガンと共演しています。
さらに『スパイダーマン2』(2004年)で演じたドック・オック役で、2021年12月に公開が予定される『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(原題)』に出演の予定です。
アル・モンロー:クリス・ローウェル
ニーナをレイプしておきながら、過去に封印して結婚を目前に控える男。この悪い男を演じるクリス・ローウェルは1984年生まれ、アメリカ出身の俳優です。
『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』やスピンオフ作品『プライベート・プラクティス 迷えるオトナたち』で助産師の役を長年務めていました。
映画ではドラマ映画『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で主役を務めたエマ・ストーンの恋人役でよく知られています。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のあらすじ【ネタバレなし】
本作の主人公・キャシーは大学の医学部に入学するほど将来有望な女性でした。しかし子どものときからの無二の親友であるニーナがクラスメートたちに強姦されて自殺したショックで大学を中退。30歳の誕生日を前にしても、両親の家で定職にもつかず暮らしています。
そんなキャシーは、夜になるとクラブで酔っ払ったふりをして男性をひっかけることを生きがいにしています。男が彼女を自分の部屋に連れ込んで彼女の意識が朦朧としているのを利用して強姦しようとする直前。キャシーはシラフに戻って男を驚かし、女性の弱点につけいることを2度としないように警告するのでした。
昼間、キャシーは気の合うゲイルのコーヒー店でアルバイトをしています。そこにたまたま医学部時代のクラスメート・ライアンがやってきました。キャシーに気のあるライアンは彼女をランチに誘います。
ライアンから他のクラスメートたちの近況を知らされたキャシー。その1人、マディソンは結婚して子どもまでいるとか。しかし、親友のニーナを強姦して自殺に追い込んだ張本人・アレクサンダー・モンローが結婚を控えていると聞いたとき、キャシーの心に黒い気持ちが広がるのでした。
この先のあらすじは、次にネタバレも含めて紹介します。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』のあらすじ【ネタバレ解説】
ここからは、映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の結末などのネタバレを含みます。未見の方はご注意ください!
大学のクラスメートたちの近況を調べたキャシーは、ニーナを自殺に追い込んだ人物をターゲットにして華麗な復讐を実行していきます。
第1のターゲット
最初のターゲットは、ニーナの噂話を広めて彼女の評判を悪くしたゴシップ大好きな女性・マディソン。
今は結婚して子どものいるマディソンをキャシーはレストランでランチに誘います。薬を混ぜた酒でマディソンが朦朧としたところで、キャシーは雇った男にマディソンをホテルの部屋に連れて行かせます。
ホテルの部屋で目が覚めて、酔った勢いで浮気をしてしまったとパニックに陥るマディソン。彼女は真相を確かめようとキャシーに電話をかけますが、キャシーはすべて無視してマディソンの不安に拍車をかけるのでした。
第2のターゲット
キャシーの次の標的はニーナのレイプ事件をもみ消して彼女を中退に追い込んだ大学のウォーカー学部長。キャシーは彼女の10歳代の娘を人気ミュージシャンのビデオのロケがあるとほのめかしてレストランで待ちぼうけ食わせます。
その間にキャシーはウォーカー学部長を大学に訪問。彼女の娘が、ニーナがレイプされたのと同じ場所に監禁されていると嘘をついて、ウォーカー学部長を震え上がらせます。
真っ青になった学部長にキャシーは本当のことを話しますが、学部長はしばらくショックから立ち直れません。
第3のターゲット
キャシーの第3のターゲットは、ニーナがレイプ事件を告訴できないようにしたグリーン弁護士。ニーナが彼の自宅を訪れてみると、グリーンは復讐を予期していたかのように彼女を家に迎え入れます。
グリーンは自分のしたことで自責の念に苛まれ、仕事も手につかないようになって休職していたのでした。
ひざまずいて許しを請うグリーンを前にして、キャシーは復讐に終止符を打つかに見えたのですが……。
衝撃のビデオを目にして最後の復讐に乗り出すキャシー
このように着々と復讐を進めながらも、キャシーは次第にライアンに心を開いて打ち解けるようになりました。2人の関係は、キャシーがライアンを自宅に招待して両親に引き合わせて、お互いに愛を告白するほど進展するのですが……。
ある日、キャシーと連絡がとれないので気も狂わんばかりになったマディソンがキャシーの家にやってきます。キャシーからホテルで何もなかったと知らされて安心したマディソンは、大学時代の携帯電話を彼女に渡します。そこにはニーナがレイプされる様子が録画されていたのでした。
その現場にライアンもいたことがわかって、キャシーは衝撃を受けます。最後の復讐を誓うキャシーは、ライアンからレイプの実行犯・アルの独身さよならパーティの場所を聞き出し、単身乗り込むのでした。
第4のターゲット
何も知らないアルは、山中の一軒家に男友だちを集めて独身さよならパーティで大はしゃぎ。そこにナースのコスチュームを着たキャシーが、ストリッパーに化けてやってきます。
全員に酒がまわったところでキャシーはアルを2階の寝室に誘ってベッドに手錠で縛り付けました。怯えるアルに正体を明かしたキャシーが、カバンからメスなどを取り出して恐ろしい復讐を実行に移そうとした直前。手錠を振りほどいたアルは彼女を組み伏せて枕で窒息死させます。
翌朝、アルは友人の助けを借りてキャシーの死体を川辺で焼却して証拠隠滅を図るのでした。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の結末を解説
しかし、たとえ殺されてもキャシーの復讐は終わっていません!
ライアンも出席したアルの結婚式が宴もたけなわの頃、警察がやってきてアルを逮捕します。キャシーは自分の身に何かあったときのため、グリーン弁護士にニーナのレイブ事件が録画された携帯電話を送っていたのでした。
アルが連行されるのを見守るライアンの携帯に、キャシーから予定されたメッセージが送られてきます。そのメッセージは「Love, Cassie & Nina ;) 」と結ばれていたのでした。
アルに復讐するとき、キャシーはニーナのことが忘れ去られてアルの名前が残るのが許せないと言います。彼女の復讐の真の目的は相手に苦痛を与えることではなく、ニーナの汚名をそそぐことだったのかもしれません。命をかけて復讐を実行したことで結果はどうであれ、キャシーとニーナは忘却の彼方に消えることはなくなったのです。
それに悲しい結末になってしまいましたが、キャシーはライアンのことはやはり好きだったのではないでしょうか。最後のメッセージからこのような思いが浮かんできました。
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の感想評価
パリス・ヒルトンなど21世紀初頭のポピュラー・カルチャーを取り入れて明るい雰囲気のブラック・コメディである『プロミシング・ヤング・ウーマン』。コメディ要素にもかかわらず、レイプ事件がすべての関係者の心に癒やすことのできない傷を残すことを強く印象づける作品です。
自分たちに都合が悪くなるとだんまりを決め込むエスタブリッシュメントのダブルスタンダードもさり気なく批判しています。
レイプ事件はすべての関係者を傷つける
ニーナがレイプされた事件は、被害者、その家族や友人ばかりでなく、その周りの人たちも傷つけていることを、この映画は見事に描き出しました。
ニーナの事件をもみ消した弁護士は、自責の念に苛まれて仕事ができなくなっています。
キャシーがライアンを自宅に招待した夜。キャシーの父親は娘に恋人ができたことを喜んで涙します。彼は、自分たちの娘同然にかわいがっていたニーナがいなくなって本当に寂しかった。しかし、キャシーも以前のようではなくなって寂しかった、と言うのです。
ライアンにしても、レイプ現場に居合わせたことがばれて、せっかくのキャシーとの関係がダメになってしまいました。
このように、ニーナの事件は思いがけない人にまで心の傷を負わせていることが、この映画に隠された重いメッセージと言えるでしょう。
エスタブリッシュメントのダブルスタンダードをチクリと批判
この映画はレイプをする男性ばかりでなく、それを容認する女性やエスタブリッシュメントのダブルスタンダードも痛烈に批判しています。
何でもビデオに撮って噂話大好きのマディソンは、ニーナのゴシップを友人の間に広めていました。そのくせ自分が浮気した噂がたってはまずいと気も狂わんばかりに心配するのです。
学部長も自分の娘がレイプされそうになると真っ青になりますが、ニーナの事件は大学の評判が悪くなるのでもみ消していました。
アメリカのメインストリーム・メディアはトランプ大統領やカバノー連邦最高裁判所判事が女性に不適切な行いをしたというニュースは大々的に報道しました。しかし、民主党のバイデン大統領が女性に触ったという問題や、息子のハンターのスキャンダルには口を閉ざしています。
政治とは関係ないところでエスタブリッシュメントのダブルスタンダードをチクリと批判するのも、コメディ映画ならではの良さだと思います。