映画『ミナリ』の作品情報
『ミナリ』は2020年に公開されたアメリカ製作のヒューマンドラマ映画。1980年代にアメリカ・アーカンソー州に移住して農場を立ち上げる韓国系移民の物語です。本作は2021年第78回ゴールデングローブ賞外国語映画賞に輝きました。
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映画『ミナリ』の概要
本作は監督・脚本を務めた韓国系アメリカ人・リー・アイザック・チョン自身のアーカンソー州における体験にもとづいた半自伝的作品です。
タイトルの「ミナリ」とは、植物のセリを意味するハングル語です。セリは日本でも田の畦や湿地で栽培されて、春の七草の1つと知られています。どこでも良く育つ植物であるセリは、本作における韓国系移民の一家の運命を象徴するものと言えるでしょう。
主役を務めたのは、『バーニング 劇場版』(2018年)で知られるスティーブン・ユアン。妻・モニカ役は韓国映画『海にかかる霧』(2014年)のハン・イェリ、韓国から呼び寄せられたおばあちゃんはユン・ヨジョンが演じました。
- 原題:Minari
- 監督・脚本:リー・アイザック・チョン
- キャスト:スティーヴン・ユアン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン
- 公開年:2020年
- 上映時間:1時間55分
- 製作国:アメリカ
映画『ミナリ』予告編
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映画『ミナリ』のあらすじ【ネタバレなし】
韓国系アメリカ人のイー一家は、カリフォルニア州からアーカンソー州の農地に移住してきました。家長のジェイコブ(スティーブン・ユアン)は、ダラスの韓国系アメリカ人の食材店向けに売る野菜などを栽培する農場を立ち上げることを計画しています。
ジェイコブは、トラクターを売ってくれたポールの手を借りて野菜の栽培を始めますが、妻のモニカは農場経営にあまり乗り気ではありません。
収穫までの収入を得るためにジェイコブとモニカは鶏卵孵化場でヒナの仕分けの仕事をしていますが、家計は火の車で口論になります。そんな両親を7歳の息子・デヴィッドと姉・アンは不安気に見守るしかないのでした。
子どもたちの面倒を見てもらえることもあって、一家はモニカの母親・ソンジャを韓国から呼び寄せます。ざっくばらんな性格で理想のおばあちゃんとはお世辞にもいえないソンジャは、一家の生活にさまざまな刺激をもたらすことに……。
映画『ミナリ』のスタッフ
監督・脚本:リー・アイザック・チョン
リー・アイザック・チョンは1978年生まれ、韓国系アメリカ人の映画監督・脚本家です。
イェール大学在学中に映画の世界に魅了されて生物学・医学の勉強を投げ出し、映画製作の道に進みました。
長編デビュー作である『Munyurangabo』(2007年)はルワンダで地元の人たちを使って撮影した映画。この作品は同年のカンヌ国際映画祭に出品されたほか、アメリカ映画協会フェストでグランプリを受賞しています。
これまで芸術性の高い映画を製作してきましたが、2020年にはマーク・ウェッブに代わって実写版『君の名は。』の監督に起用されるなど一般的な作品にも進出しています。
本作の脚本は、チョン監督が1980年代にアーカンソー州の農場で育ったときの経験をもとに執筆したのだとか。
「ロサンゼルス・タイムズ」紙のインタビューで同監督は、本作が家族の過去を生々しく描いたものであることについて、次のように語っています。
両親は表に出たがらない人たちです。この映画を製作していることは、両親の反応が怖かったので、撮影が終わって編集に入るまで両親に内緒にしていました。
映画『ミナリ』のキャスト
ここからは映画『ミナリ』のメインキャストをご紹介します。見出しは「役の名前:俳優の名前」の順番です。
ジェイコブ・イー:スティーヴン・ユァン
ジェイコブは、自分の農場を立ち上げるためにアーカンソー州の田舎の開拓地を買って妻子を連れて移住してきた韓国系アメリカ人です。
ジェイコブ役を務めたスティーヴン・ユァンは1983年、ソウル市生まれの韓国系アメリカ人の俳優です。
スティーヴン・ユァンはアメリカのテレビを中心に活躍しており、2010年から2016年までテレビドラマ『ウォーキング・デッド』のメインキャストを務めました。
日本では村上春樹の短編小説にもとづいた映画『バーニング 劇場版』(2018年)のベン役でも知られています。
モニカ・イー:ハン・イェリ
モニカは、ジェイコブと結婚して韓国からアメリカに移民してきました。農場経営を優先するジェイコブと一家の将来に不安を抱きながらも夫に懸命に協力する良き妻です。
モニカ役を演じるハン・イェリは1984年生まれ、韓国出身の女優です。短編映画やインディーズ作品に出演して経験をつんだ彼女は、2012年公開のスポーツ映画『ハナ 〜奇跡の46日間〜』に出演して注目されるようになりました。
代表作は、『ザ・スパイ シークレット・ライズ』(2013年)、『海にかかる霧』(2014年)、『ワンナイト・カップル』(2015年)などです。
デヴィッド:アラン・キム
デヴィッドは、心臓に問題のあるので激しい運動を禁じられているイー家の長男です。
デヴィッド役には、本作が映画デビューとなる子役・アラン・S.・キムが抜擢されました。
アランは2021年2月の時点で小学校2年生、好きな科目は算数と理科、自転車に乗るのが大好きだそうです。
アン:ノエル・ケイト・チョー
アンはイー家の長女、デヴィッドの姉です。夫婦げんかをする両親をなだめたり、病気のおばあちゃんの面倒をみたり、母親を気遣ったりとしっかり者の一面を発揮します。
アン役を演じたのは、子役のノエル・ケイト・チョーです。
スンジャ:ユン・ヨジョン
スンジャは、韓国からアメリカに呼び寄せられるモニカの母親です。朝鮮戦争で夫を失い都会で暮らしてきたので、料理などはほとんどできません。孫のデヴィッドに花札を教えたり、アメリカのプロレス中継に夢中になったりと普通のおばあちゃんとはイメージが少し違います。
スンジャに扮したのは、1947年生まれの韓国のベテラン女優・ユン・ユジョンです。
1966年に韓国のテレビのオーディションに合格して、女優デビューを果たした後、『火女』(1971年)と『蟲女』(1972年)で悪女を演じて注目されました。
2000年代以降は、お母さんやおばあちゃん役で脇役として活躍しています。
ポール:ウィル・パットン
ポールは、ジェイコブの農場を手伝う親切なアメリカ人です。朝鮮戦争に従軍していたこともあって初対面のときからジェイコブに親しみを感じることに。このためジェイコブが困難に直面して癇癪を起こしても、やさしく励ましてくれます。
ポールはとても敬虔なクリスチャンですが、毎週日曜日にイエス・キリストのように大きな木の十字架を背負って道を歩くことから、近所の子どもから変わり者扱いされています。
ポールを演じたのは、1954年生まれアメリカ・サウスカロライナ州出身の俳優、ウィル・パットンです。1980年代から、舞台、映画、テレビと幅広く活躍しており、特に舞台ではニューヨークのオビー賞を2度受賞しています。
テレビでは2010年から2012年までスティーブン・スピルバーグ製作総指揮によるSFテレビドラマ『フォーリング スカイズ』でダン・ウィーヴァー隊長に扮しました。
リー・アイザック・チョン監督の作品には、ヒューマンドラマ映画『Abigail Harm(原題)』(2012年)に出演しています。
映画『ミナリ』のネタバレ解説
ここからは、映画『ミナリ』の結末などのネタバレを含みます。未見の方はご注意ください!
さまざまな困難に直面するジェイコブの農園
ジェイコブの農園は、井戸が枯れたり卸売が注文をキャンセルしたりするなどさまざまな困難に見舞われます。
借金がかさんでいくことで将来に不安を感じるモニカはカリフォルニアに帰りたがりますが、ジェイコブは耳をかしません。
このため夫婦の仲もギクシャクしてきます。
おばあちゃんと孫の間に芽生える絆
一方、スンジャは孫たちを連れて小川のほとりに韓国から持ってきたセリの種を蒔きに行きます。スンジャは、セリが丈夫で役立つ植物であることを説き、小川のそばで良く育つだろうと言います。
そんなスンジャに、7歳の孫のデヴィッドはしばらく打ち解けないでいました。
しかし、おばあちゃんから花札を教えられ、傷の手当をしてもらったり、添い寝をしてもらったりするうちに、彼女との間に絆が芽生えてきます。スンジャは、心臓に問題があるので激しい運動を禁じられているデヴィッドを、本当はもっと強い子なのだと励まします。
そんなスンジャはある夜心筋梗塞になって、一命はとりとめたものの身体が一部麻痺してしまいました。
ついに夫婦は別居の危機に
アーカンソー州が記録的な猛暑に見舞われたある日、ジェイコブは妻子を引き連れて車でオクラホマ・シティに出かけます。その目的はデヴィッドの心臓の検査と農場の作物を韓国食材店に売り込むことでした。
病院の検査でデヴィッドの心臓は自然治癒しつつあることを知らされた一家ですが、モニカはジェイコブが農作物の売り込みを優先していたことを非難します。
ジェイコブは韓国食材店に農作物を売り込むことに成功しますが、モニカと口論になって夫婦別居の危機に陥ります。
おばあちゃんの間違いで大事な作物を保管する納屋が火事に!
一家が農場に帰ってくると、スンジャの間違いで作物を収穫した納屋が火事になっていました。ジェイコブとモニカは作物を運び出そうとしますが、火の勢いは手がつけなくなり納屋は焼け落ちます。
頭が混乱したスンジャは徘徊を始めますが、孫のデヴィッドとアンに連れ戻されます。
結末の意味を解説!
それからしばらくたってジェイコブとモニカは、水源を言い当てる占い師を雇って農場の新しい井戸を探すことにします。水源の場所に2人は石を置くのですが、これは一家がこの土地に定住することを象徴するものと言えるでしょう。
最後のシーンでジェイコブとデヴィッドの父子は、おばあちゃんが植えたセリを収穫するために小川を訪れます。立派に育ったセリを前にジェイコブは、「おばあちゃんは良い場所を選んだな。おいしそうだ」と言ってセリの収穫を始めるのでした。
韓国からもたらされたセリの種がアメリカの土に根付いたことが、イー一家の明るい未来を示唆する印象深い幕切れです。
映画『ミナリ』の感想評価
映画『ミナリ』は、リー・アイザック・チョン監督の半自伝的作品であり、韓国系移民の日常を淡々と描いたことが特長です。さらにおばあちゃんに扮したユン・ヨジョンの迫真の演技が、本作のリアルさを引き立てています。
アジア系移民の日常に共感できる?
本作に共感できるかどうかのポイントは、淡々と描かれる韓国系移民の日常生活にどこまで感情移入できるかでしょう。
韓国人一家の物語なのでセリフの大半は韓国語ですが、アーカンソー州の田舎のアメリカ人との交流も描かれています。近所の人と知り合いになったり、仕事仲間を初めて家に招待したりとアメリカに移り住んだ人が誰でも経験するシーンも少なくないです。
アメリカに家族で長期滞在したことのある人ならば自らの経験に照らして共感することもあるかもしれません。またこれからアメリカに行こうと思っている人には、アジア系移民のアメリカにおける生活の一端を垣間見ることのできる貴重な映画といえるでしょう。
おばあちゃん役のユン・ヨジョンの迫真の演技が素晴らしい
またアメリカでの生活とは関係なく、ベテラン女優・ユン・ヨジュンのリアルなおばあちゃんの演技に感銘を受ける人も多いのではないでしょうか。
ざっくばらんな性格で、床に座ってテレビのプロレス中継にくぎ付けのおばあちゃん。
日本でもこんなおばあちゃんを見たことがある、という人は少なくないと思います。