異色のボンドガール・マドレーヌ・スワンの活躍を振り返る
マドレーヌ・スワン博士は精神科の医師で、犯罪組織・スペクターの構成員であったミスター・ホワイトの娘です。
彼女はボンドガールの慣例を破って映画『007 スペクター』と『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の2作品連続でジェームズ・ボンドの恋人となりました。
マドレーヌ・スワン役を演じたのはフランスの女優・レア・セドゥです。
この記事ではマドレーヌ・スワンの活躍をくわしく振り返り、マドレーヌというキャラクターの性格などについても考察します。
映画『007 スペクター』(2015年)までのマドレーヌ・スワンの生い立ち
マドレーヌの子ども時代
マドレーヌ・スワンはミスター・ホワイトと彼の妻との間にフランスで1986年ころ生まれました。
彼女がまだ子どものとき、マドレーヌの母はミスター・ホワイトを殺しに来たサフィンによって、不在だったミスター・ホワイトの代わりに殺害されます。マドレーヌはサフィンを拳銃で撃ち気絶させ外に逃げますが、溺れそうになったところをサフィンに救われました。
ホテル「アメリカン」のミスター・ホワイトの隠し部屋の壁に貼ってあった写真から、子どもの頃マドレーヌは父親と仲がよかったと見られます。
しかし、成長して父親の犯罪組織とのつながりを知ったマドレーヌは父親を嫌悪するようになりました。
精神療養所勤務の医師となる
大人になってマドレーヌは父親とのコンタクを一切断つようになりました。彼女はオックスフォード大学とソルボンヌ大学で医学を専攻します。
大学卒業後、精神療養所のコンサルタントになったマドレーヌは、さらに2年間「国境なき医師団」で働きます。
『007 スペクター』でジェームズ・ボンドと出会ったとき彼女はオーストリア・アルプスのゼルデン近くのホフラー・クリニックで働いていました。
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映画『007 スペクター』(2015年)
オーストリアのクリニックでボンドと出会う
謎の悪の組織について調べるボンドはミスター・ホワイトのオーストリアの隠れ家を訪れました。ミスター・ホワイトは彼の娘のマドレーヌに「アメリカン」に案内してもらうようボンドに言って自殺します。
ボンドは彼女の働くクリニックを訪れます。彼女は最初ボンドを警戒して相手にしません。しかし、スペクターのヒットマン・ミスター・ヒンクスがマドレーヌを誘拐。ボンドは激しいカー・チェイスの末に彼女を救出しました。
ホテルでQと落ち合ったボンドにマドレーヌは彼らが追っている組織の名前は「スペクター」であることを教えます。さらに「アメリカン」はミスター・ホワイトが毎年宿泊していたモロッコのホテルの名前であることも打ち明けました。
ホテル「アメリカン」
ボンドとマドレーヌはモロッコに飛んで「アメリカン」のミスター・ホワイトの部屋に宿泊します。ボンドはマドレーヌに彼女の父親は死にかけていたが、ボンドと会うまで死ななかったのは彼女のためであったと言います。
ボンドと恋愛関係になりたくないマドレーヌは寝ているときに触ったらボンドを殺すと言って床につきました。
翌朝、ボンドはミスター・ホワイトの隠し部屋でスペクターの本部の場所を示す資料を発見します。
スペクターの本部へ向かう列車のなかでマドレーヌとボンドはミスター・ヒンクスの襲撃を受けます。マドレーヌがボンドのピストルでミスター・ヒンクスを撃ちボンドがそのまま彼を列車から突き落として2人は難を逃れました。
興奮冷めやらぬ2人はそのまま列車の寝台で深い仲となります。
スペクターの施設
砂漠のなかの駅で列車を降りたボンドとマドレーヌは、ボンド育ての親の息子・ハンネス・オーバーハウザーの手下にピックアップされます。
スペクターの施設でボンドをドリルで拷問しながらオーバーハウザーはMI5のマックス・デンビー局長はスペクターの手下であることを打ち明けました。
デンビーは米英を含む9カ国の情報機関を統合する「ナイン・アイズ」プロジェクトを推進しています。このプロジェクトは情報機関の情報をすべてスペクターに横流しする陰謀でした。
オーバーハウザーはボンドに今の自分の名前はエルンスト・スタヴロ・ブロフェルドであると伝えます。34年前に事故死したように見せかけてオーバーハウザーは母方の姓を使っていたのです。
マドレーヌはボンドの腕時計爆弾を使ってボンドを救出し、スペクターの施設を破壊しました。
ロンドンでブロフェルドと決戦
ロンドンに戻ったボンドとマドレーヌはMたちにデンビーと「ナイン・アイズ」の陰謀を教えます。
マドレーヌはこれ以上巻き込まれたくないと言って、ボンドと別れますがブロフェルドの手下に捉えられMI6の古い建物に監禁されました。
駆けつけたボンドにブロフェルドは3分以内に彼女を救い出さなければ建物が爆発すると言います。マドレーヌを見つけ出したボンドは彼女を連れてモーターボートでテムズ川に脱出しました。
ボンドたちはブロフェルドの乗ったヘリコプターを撃墜し、負傷したブロフェルドはMたちに引き渡されます。
一件落着したボンドはQに修理してもらった愛車・アストン・マーチンDB5にマドレーヌを乗せて何処へともなく走り去るのでした。
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)のネタバレも含むあらすじのくわしい解説は以下の記事をご覧ください。
マドレーヌとボンドの破局
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の冒頭、マドレーヌの母親が殺されるシーンの後、時代は『007 スペクター』の直後に移ります。
ボンドはMI6を引退してマドレーヌと新しい生活を始めようとしています。その前にボンドは彼女のすすめで『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年)で自殺した元恋人・ヴェスパー・リンドの墓を南イタリア・マテーラに訪れます。
ところが、墓を訪れたボンドは突然傭兵たちに襲撃されました。マドレーヌに裏切られたと思い込んだボンドは彼女と別れてしまいます。
サフィンに操られるマドレーヌ
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のメインストーリーはそれから5年後、恐るべきハイテク兵器を手に入れたサフィンとボンドの戦いです。
テロリストであるサフィンは、ウィルスのように接触で人体に侵入して特定の遺伝子の持ち主を殺せるナノボットの開発者をMI6から誘拐しました。
ブロフェルドに恨みのあるサフィンは、ブロフェルドとコンタクトのあるマドレーヌを脅して彼にこのナノボットを感染させて殺そうとします。
ブロフェルドにナノボットを感染させる日、マドレーヌは彼が収監されている刑務所で偶然5年ぶりにボンドと再開します。取り乱した彼女はボンドにナノボットを感染させてブロフェルドに会わずに去りました。
その後ボンドはブロフェルドを尋問中に彼を殴ってナノボットを感染させてブロフェルドを死に至らしめます。
ボンド、マドレーヌの娘・マチルドと初対面
真相を知ったボンドはマドレーヌのもとを訪れました。彼女は5歳になる娘・マチルドと暮らしています。マドレーヌはボンドにマチルドは彼の子どもではないと言います。やがて、マドレーヌとマチルドはサフィンの手下に誘拐されました。
ボンドはMI6のダブルオー・エージェント・ノーミとともにロシアと日本の間の島にあるサフィンの基地に潜入します。サフィンはボンドにマチルドが彼の娘であることをほのめかします。
マドレーヌとマチルドはノーミによって救出されました。島に残ったボンドは基地を完全に破壊するべくサフィンと対決します。
マチルドはマドレーヌとボンドの娘だった
死闘の末ボンドはサフィンを倒したものの、サフィンはボンドに新しいナノボットを注射します。
そのナノボットはマドレーヌやマチルドのDNAに反応して彼女たちを殺すようにプログラムされていました。ボンドは彼女たちを抱きしめることはおろか手を触れることさえかなわなくなったのです。
絶望したボンドは島を破壊するミサイルの爆発に巻き込まれます。ミサイルが着弾する前、ボンドはマドレーヌと最後の言葉を交わします。マドレーヌはボンドにマチルドが彼の娘であることを打ち明けました。
その後マテーラを訪れたマドレーヌはマチルドにボンドのことを話して聞かせるのでした。
マドレーヌ・スワンの性格について考察
ミスター・ホワイトの娘にして精神科医という背景から、マドレーヌ・スワンは意志が強く、負けず嫌いで頭の回転の早い女性です。
スペクターから逃れるためオーストリア・アルプス山中の精神療養所という完璧な隠れ場所を見つけたことは父親であるミスター・ホワイトも感服していました。
マドレーヌは子ども時代の経験がトラウマになっており、そのことは武器を嫌悪することやボンドに対する警戒心に表れています。
彼女が銃を嫌悪する理由は子ども時代の体験にあります。
ある夜、ミスター・ホワイトを殺そうと男が家に侵入しました。マドレーヌは父親が隠していたピストルでその男を撃ちます。それ以来彼女は銃を激しく嫌うようになった、と『007 スペクター』でボンドに語っていました。
銃は嫌い、といっても少なくとも拳銃の使い方は熟知しています。意志の強さや状況判断の良さもあって彼女はボンドの命を救う重要な役割を何度も果たしました。
自分の仕事を持っているため経済的に独立しているマドレーヌはボンドと別れた後も彼との間に授かった娘をひとりで育てています。
このようなマドレーヌのキャラクターについてこの役を演じた女優・レア・セドゥは「ボンドガールの既成概念とは異なる」と語っています。
マドレーヌ・スワン役を演じる女優・レア・セドゥについて
マドレーヌ・スワン役を演じる女優・レア・セドゥは1985年にフランス・パリで生まれました。彼女の祖父は映画会社・パテの会長、大叔父は映画会社・ゴーモンの会長、母親は石油開発会社シュルンベルジェ創設者の孫です。
2006年に映画デビューしたセドゥは2008年に『美しいひと』でフランスの権威ある映画賞・セザール賞の有望新人賞にノミネートされて注目を集めるようになりました。翌年にはクエンティン・タランティーノ監督作品『イングロリアス・バスターズ』に出演してハリウッド進出を果たしています。
2013年、主演したアブデラティフ・ケシシュ監督作品『アデル、ブルーは熱い色』がカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。このときセドゥとアデル・エグザルホプロスにも特別にパルム・ドールが贈られ、セドゥは女優として初めてパルム・ドールを受賞するという快挙を成し遂げました。
『007 スペクター』(2015年)と『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)と2作連続でボンドガールを演じたことも異例のことです。
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マドレーヌは21世紀のボンドの相手役にふさわしい強くて聡明な女性
この記事では異色のボンドガール・マドレーヌ・スワンについてくわしく解説しました。
1960年代から続くジェームズ・ボンド映画のなかでボンドが真剣な関係になった女性の数は少なく、しかも相手の女性たちは不幸な最期を遂げることが多かったです。
マドレーヌ・スワンは子ども時代のトラウマにもかかわらず、強い意志と明晰な頭脳で生き残り従来のボンドガールのイメージを完全に打ち破りました。
ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる最後の映画でこのような印象的な女性をボンドの相手役にしたことで、21世紀のボンド映画に新しい道が開かれたと言えるでしょう。