映画『オールド』の作品情報
『オールド』は、『シックス・センス』や『ヴィジット』で知られる奇才・M.・ナイト・シャマランが監督・脚本・製作を務めたサスペンス映画です。
舞台はカリブ海の美しいリゾート・アナミカ。一度入ったら逃げられず、「1日で老いて死ぬ」謎のビーチを訪れた人たちの恐怖を描きます。
原作はフランスの映画監督・ピエール・オスカル・レヴィとスイスのマンガ家・フレデリック・ペータースによるグラフィック・ノベルです。
- 原題:Old
- 監督・脚本:M.・ナイト・シャマラン
- 原作:ピエール・オスカー・レヴィ、フレデリック・ペータース『Sandcastle』
- キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、ルーファス・シーウェル
- 公開年:2021年
- 上映時間:1時間58分
- 製作国:アメリカ
映画『オールド』予告編
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映画『オールド』の監督・脚本:M.・ナイト・シャマラン
Embed from Getty Images映画『オールド』の監督・脚本を務めたM.・ナイト・シャマランは『シックス・センス』(1999年)や『ヴィジット』(2015年)の衝撃的などんでん返しの結末で有名になった監督です。
シャマラン監督は現実的な設定で超自然的なプロットを使ってどんでん返しの結末を演出することで定評があります。米Colliderによれば、映画『オールド』も結末が最初に浮かんで、その結末にどのように持っていくかで思案した、と語っています。その言葉通り、原作を読んだ人でも驚かされる結末です。
一方、ペンシルベニア州で育ったシャマラン監督は、これまでの作品は同州のフィラデルフィア周辺で撮影したものがほとんどでした。今回はドミニカ共和国で撮影を行っており、この点は同監督にとって新路線です。
『オールド』のなかで登場人物のひとりが、「うちの家族はフィラデルフィアから来た」と言うのは、シャマラン監督のフィラデルフィアへの愛情を示していると言えます。
映画『オールド』の原作:『Sandcastle(原題)』
映画『オールド』の原作は2010年に出版されたグラフィック・ノベル『Sandcastle(原題)』です。このグラフィック・ノベルは2017年の父の日にシャマラン監督の3人の娘さんたちが彼にプレゼントしてくれたものだとか。
グラフィック・ノベルの原案は短編やドキュメンタリー映画で評価されるフランスの映画監督・ピエール・オスカル・レヴィです。
作画は写実的な作風のスイスのマンガ家・フレデリック・ペータースが担当しました。
この原作グラフィック・ノベルにはシャマラン監督の映画のような明確な結末がありません。シャマラン監督は未完の物語の結末を考えることから今回の映画の発想を膨らませていったそうです。
映画『オールド』のキャスト
ここでは映画『オールド』の登場人物を紹介します。見出しは「役の名前/俳優の名前」の順番です。
ガイ/ガエル・ガルシア・ベルナル
Embed from Getty Imagesガイはプリスカの夫、マドックスとトレントの父で保険のリスクプロファイルなどを作る保険数理士(アクチュアリー)です。
ガイ役を演じるガエル・ガルシア・ベルナルは1978年生まれ、メキシコ出身の俳優です。
メキシコで絶大な人気を誇るガルシア・ベルナルは、アルフォンソ・キュアロン監督作品『天国の口、終りの楽園。』(2001年)の主役に抜擢されて注目を集めました。
彼はアマゾン・プライムのドラマ『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』の指揮者役でゴールデングローブ主演男優賞(TVシリーズ、ミュージカル・コメディ部門)を獲得しています。
プリスカ/ヴィッキー・クリープス
Embed from Getty Imagesプリスカはガイの妻で腹部に腫瘍があり、不倫を隠してガイと離婚しようとしています。
彼女の職業は博物館の職員で、発掘に参加したことがあるため、死体の腐敗のスピードについても少し知識があります。
プリスカ役を演じるヴィッキー・クリープスは1983年生まれ、ルクセンブルク出身の女優です。
フランスやドイツのテレビ、映画に多数出演しているクリープス。英語圏の映画では『ファントム・スレッド』(2017年)におけるダニエル・デイ=ルイスの相手役・アルマ・エルソン役が最も高く評価されています。
トレント/アレックス・ウルフ他
トレントはガイとプリスカの息子でマドックスの弟です。
トレント役を演じる俳優は年齢に合わせて4人います。
6歳のトレントはノーラン・リバー、11歳のトレントはルカ・ファウスティーノ・ロドリゲス。15歳のトレントは『ヘレディタリー/継承』(2018年)でピーター役を演じたアレックス・ウルフ、成人したトレントはイギリスのTVで活躍するスコットランド出身の俳優・イーモン・エリオットです。
マドックス/トーマシン・マッケンジー他
マドックスはガイとプリスカの娘でトレントの姉です。
マドックス役を演じる女優は年齢に合わせて3人います。
11歳のマドックスはアレクサ・スイントン、16歳のマドックスは『ジョジョ・ラビット』のユダヤ人少女役で知られるトーマシン・マッケンジー、大人のマドックスは1990年代から2000年代にかけて多数の映画に出演したエンベス・デイヴィッツです。
チャールズ/ルーファス・シーウェル
チャールズは外科医で、統合失調症を患っています。このため突然、「ジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドが共演した映画は……」などと関係のないことにこだわることがあります。
原作コミックではアルツハイマーになるキャラで、シャマラン監督の父の痴呆症も反映されているそうです。
チャールズ役を務めたルーファス・シーウェルは1967年生まれイギリス出身の俳優で、イギリスのテレビや舞台を中心に活躍しています。ちなみにファミリーネームの発音は「スーエル」が近いかも。
『レジェンド・オブ・ゾロ』(2005)のアルマン伯爵役など悪役で定評があるシーウェル。今回も人種差別的な男の役を見事に演じています。
クリスタル/アビー・リー
クリスタルはチャールズの妻で、低カルシウム血症を患っています。
クリスタル役を演じるアビー・リーはオーストラリア出身のファッションモデル、女優です。彼女は2015年に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を皮切りに女優活動を始めました。
2019年にはギャスパー・ノエ監督作品『Lux Æterna(原題)』に出演、2020年に放送されたHBOドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』ではメインキャストの1人を務めるなど、本格的な演技のできる女優として活躍しています。
カラ/イライザ・スキャンレン他
カラはチャールズとクリスタルの娘です。
カラ役を演じる女優は年齢に合わせて3人います。
6歳のカラはカイリー・ベグレイ、11歳のカラはミカヤ・フィッシャー、15歳のカラはグレタ・ガーウィグ監督作品『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)でマーチ家の三女・ベス役を演じたイライザ・スキャンレンです。
アグネス/キャスリーン・チャルファント
アグネスはチャールズの母、クリスタルの姑、カラの祖母です
アグネス役を演じるキャスリーン・チャルファントは1945年生まれ、アメリカ出身の女優です。
ブロードウェイなどの舞台で活躍したチャルファントは1980年代後半から『パーフェクト・ストレンジャー』(2007年)など多数の映画に出演してきました。
『ヘレディタリー/継承』で、主人公・アニーの亡くなった母親役でクレジットなしの出演をしています。
ジャリン/ケン・レオン
ジャリンは看護士でパトリシアの夫です。
ジャリン役を演じるケン・レオンは1990年代後半から映画やテレビドラマで活躍する中国系アメリカ人の俳優です。『LOST』(2008〜2010年)のシーズン4〜6にマイルズ・ストローメ役でレギュラー出演していました。
パトリシア/ニキ・アムカ=バード
パトリシアは心理士でジャリンの妻、てんかんを患っています。
パトリシア役を演じる ニキ・アムカ=バードはイギリスのテレビや映画で活躍するナイジェリア出身のイギリス人女優です。
ミッド=サイズド・セダン/アーロン・ピエール
ミッド=サイズド・セダンはブレンダンという本名のラッパー、血友病のような血液の難病を患っています。ミッド=サイズド・セダンは、彼が通った私立の学校で、他の子の親は弁護士などだったのに、彼の父親は歯科医だったためにつけられたあだ名です。
ミッド=サイズド・セダンを演じるアーロン・ピエールは1994年生まれ、イギリス出身の俳優です。今回の『オールド』への出演は、彼の長編映画デビューとなります。
リゾート・マネージャ/グスタフ・ハマーステン
リゾート・マネージャは何も知らない家族を「1日で老いて死ぬ」謎のビーチへのツアーに誘う怪しげな人物です。
リゾート・マネージャ役を演じるグスタフ・ハマーステンはサシャ・バロン・コーエン主演の『ブルーノ』(2009年)でコーエンのサイドキック役を務めたスェーデンの俳優です。
イドリブ/カイレン・ジュード
イドリブはリゾート・マネージャの甥でトレントと仲良くなる子どもです。
イドリブ役を演じるカイレン・ジュードは『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』シーズン16第6話などに出演したことのある子役です。
マドリッド/フランチェスカ・イーストウッド
マドリッドはホテルのスタッフのひとりで、到着した客にカクテルを持ってくる女性です。
マドリッド役を演じるフランチェスカ・イーストウッドは、クリント・イーストウッドと女優・フランシス・フィッシャーの間に1993年に生まれた娘です。女優としてはテレビドラマやリアリティ番組で活躍しています。
ホテルのバスの運転手/M.・ナイト・シャマラン
謎のビーチに観光客を連れて行くマイクロバスの運転手役は、シャマラン監督自身が演じています。
映画『オールド』のあらすじを結末まで要約【ネタバレ注意】
ガイとプリスカの夫婦は2人の子どもをつれて、インターネットで見つけたとてもお得なリゾート・ホテルにやって来ます。翌日、彼らはリゾート・マネージャがこっそり教えてくれた秘密のビーチで他の2家族とともに1日を過ごすことにしました。【起】
しかし、のどかな海岸の雰囲気は溺死体が流れ着いて一変。観光客はホテルに帰ろうとしますが、岩壁を通り抜けようとすると気を失って海岸に弾き戻されてしまいます。しかも、この海岸は人間の成長・老化を加速する力があるのです。【承】
この海岸では、1時間で2歳年をとるためほとんどの人は翌日までに死ぬ運命にあります。パニックに陥った人びとは次々に死んでいきます。それでも生き残ったガイとプリスカも夜には老衰で死にました。【転】
翌朝、ガイとプリスカの子どもだったマドックスとトレントはすっかり中年になっていました。トレントは前日マネージャの甥がくれたメモからサンゴ礁の下に抜け道があることに気づき、死の海岸から脱出します。ホテルは製薬会社の研究施設の隠れ蓑で、人間が急速に年をとる海岸を利用して製薬会社は薬の臨床試験を行っていたのです!【結】
映画『オールド』のあらすじ:起
ここからは映画『オールド』のあらすじを起承転結にわけて解説します。
インターネットで見つけた破格のリゾート
ガイとプリスカは子どものトレントとマドックスを連れてアナミカのリゾート・ホテルを訪れます。ホテルの玄関ではリゾートのマネージャが特製カクテルを用意してお出迎え。インターネットで特別料金の値段にしてはあまりに豪華なホテルに一家は大喜びです。
トレントはリゾート・マネージャの甥・イドリブとすぐに仲良くなり、一緒に海岸で見知らぬ人の名前や職業を聞いて遊びます。
しかし、プリスカはガイに離婚を求めており、今回の旅行は家族揃って最後の旅行だったのです。
リゾート・マネージャおすすめの秘密のビーチ
翌日、ガイ一家はリゾート・マネージャが特別な客にしか教えないという秘密のビーチへのツアーに参加することにしました。
同じツアーには、外科医のチャールズ、妻・クリスタル、娘・カラ、チャールズの母・アグネスの4人家族と看護士のジャリンと彼の妻・パトリシアの夫婦も参加します。
彼らはホテルからマイクロバスに乗って、自然保護区域として柵で囲われて立入禁止になっているビーチに着きました。彼らはバスに積んであったたくさんの食べ物を持って海岸に下りていきます。
切り立った岩の崖の間を抜けるとそこは美しい海岸でした。
マドックスは海岸で彼女のアイドルであるラッパー・ミッド=サイズド・セダンが座っているのを見つけて大喜びです。
映画『オールド』のあらすじ:承
溺死体が流れ着いて楽園は一変して地獄に
しかし、ビーチののどかな雰囲気は海で泳いでいたトレントが流れ着いた女性の死体を見つけて一変しました。ミッド=サイズド・セダンは、彼女は自分の連れで、ひとりで海に泳ぎに入って戻って来なかった、と言います。
チャールズは、ミッド=サイズド・セダンが女の死に関与しているのではないかと疑います。彼らは携帯でホテルに連絡しようとしますが、電波が届きません。さらに崖の間を通って海岸から出ようとしたジャリンは気を失い、気がつくともとの海岸に戻っていました。
その間、チャールズの母・アグネスは体調が急速に悪化して死んでしまいます。
さらに追い打ちをかけるように、3人の子どもたちは親にも見分けがつかないほど急速に成長してティーンエージャーになっていました!
難病を抱えた家族ばかり招待されている
大人たちは集まって、海岸で何が起こっているのか相談します。彼らは家族の少なくともひとりは何らかの難病を患っていることに気づきます。
ミッド=サイズド・セダンは血が固まらず、彼の連れは多発性硬化症の診断を受けたばかりでした。ジャリンの妻・パトリシアはてんかんを患っており、チャールズは統合失調症で彼の妻は低カルシウム血症です。
心理士のパトリシアは、集団心理の異常ではないかと考え、全員を集めて悩みを聞きはじめます。すると今度はプリスカの体調が急に悪くなりました。彼女の3センチメートルだった腫瘍は、海岸にいる間にソフトボール大に膨れ上がっていたのです!
チャールズが執刀して腫瘍を摘出することにしますが、切開面がすぐふさがってしまいます。それでも何人かで切開面を手でおさえて摘出することに成功した腫瘍は、大人の手のひらよりも大きくなっていました。腫瘍を摘出したためプリスカはすぐに回復します。
30分で1歳年をとる
子どもが急速に成長したこと、傷がすぐに治ること、死体が数時間で骨と皮だけになったこと。こういった事実から、彼らはこの海岸に細胞を急速に変化させる作用があるという結論に達します。死体の腐敗からプリスカはビーチでの30分は通常の1年に相当すると計算します。
海岸から出ようとすると気を失うのは、深海からダイバーが急速に海面に浮上すると圧力の変化に体がついて行かないのと似た現象だとジャリンは考えます。
映画『オールド』のあらすじ:転【ネタバレ注意】
ビーチから逃げられず、次々と死んでいく人たち
一方、大人たちが慌てふためいている間にトレントとカラは仲良くなって、カラは子どもを授かってしまいました!1時間もしないうちに生まれた赤ん坊は、ビーチでの急速な成長に適応できず、生まれてすぐ死んでしまいます。
やがて人びとのビーチから脱出しようとする試みもむなしく、彼らはさまざまな原因で次々に死んでいきます。
頭のおかしくなったチャールズは、ミッド=サイズド・セダンをナイフで何回も刺して殺してしまいました。
ジャリンは泳いで脱出しようとしますが、途中で気を失って溺れ死んでしまいます。
崖を登って逃げようとしたカラは、やはり途中で気を失って崖から転落死。パトリシアはてんかんの発作で窒息死します。
そんななか、プリスカは離婚しようと思ったのは一時の心の迷いであったことに気づき、ガイと和解します。
誰かに監視されている
夕方、マドックスとトレントは、以前に海岸で死んだSF作家がそこで起きたことを記録したノートを発見。さらに崖の上から何者かが彼らを監視・録画していることに気づきました。
夜になって気の狂ったチャールズはガイに襲いかかります。プリスカは海岸に落ちていた錆びたナイフでチャールズを傷つけます。傷口から入った細菌があっという間に全身にまわり、チャールズは真っ黒になって死にました。
チャールズの妻・クリスタルは低カルシウム血症でもろくなった体中の骨が折れて変わり果てた姿で息絶えます。
家族水入らずとなったガイとプリスカは子どもたちに見守られ、安らかに最期を迎えました。
映画『オールド』のあらすじ:結【ネタバレ注意】
翌日まで生き残ったのはマドックスとトレントだけ
翌朝、海岸に残っているのは大人になったマドックスとトレントだけです。彼らは海岸で砂のお城を作ります。(原作グラフィック・ノベル『Sandcastle(原題)』へのオマージュです。)
そのとき、トレントは前日にイドリブからもらった暗号のメモを解読します。そこには「僕のおじさんはサンゴが嫌い」と書かれていました。
サンゴ礁の下に抜け道があるのではないかと推理した2人は、サンゴ礁のなかに泳いでいきます。
そんな2人を崖の上から観察していたバスの運転手は、2人が浮かび上がってこないことを確認して本部と連絡。「実験73の参加者は全員死亡、観察完了」と報告して帰っていきました。
衝撃の結末
実はこのリゾート・ビーチは製薬会社・ウォレン&ウォレンが新薬の治験に使う施設だったのです。製薬会社は難病患者の家族を特別料金でリゾートに招待して、新薬の実験台にしていたのでした。
細胞の変化が早いビーチでは大人が一日で老いて死亡するため、数十年かかる長期観察も1日で終えることが出来るのです。リゾートのスタッフは新薬の実験成功を祝い、次の実験のため反省会を開きます。
一方、サンゴ礁を無事通り抜けて死の海岸からの脱出に成功したマドックスとトレントはホテルに帰ってきました。
トレントは前に職業を聞き出した警察官のリゾート客にビーチで見つけたノートを証拠として渡します。彼はノートに記録されていた名前を行方不明届と照会します。
リゾート・マネージャが新しく到着した客を治験薬の入った特製カクテルで歓迎しようとしているところにマドックスとトレントが乱入。警察官のリゾート客から連絡を受けた警察も駆けつけて製薬会社のスタッフを逮捕します。
今や中年のトレントとマドックスは警察のヘリコプターで叔母のところに連れていかれることになりました。
映画『オールド』のネタバレ解説・考察1:アナミカ海岸の謎を徹底分析
何故アナミカの海岸では急速に老化するのか
アナミカ海岸で人びとが急速に老化する理由は、海岸に細胞の老化を加速させる効果があるからです。髪や爪が伸びないのは、これらが「死んだ細胞」であるからだ、と説明されています。
このため単純な切り傷や骨折はあっという間に治ってしまいます。しかし、崖から転落したり、めった刺しにされたりすると、全身に短時間で回復しきれない傷を負うため死んでしまうのです。
さらに傷口から体内に細菌が入ると短時間で増殖するため、錆びたナイフで傷ついたチャールズは敗血症で死亡しました。
ビーチにたくさんの食べ物を持っていくのは、特に子どもが急成長するためお腹が空くからです。
何故アナミカ海岸から離れようとすると気絶するのか
この現象は、海岸を取り囲む岩壁の磁力が関係しているのではないか、と推測されています。
磁力が人体に水圧とおなじように作用して、深海から急に浮上したときと同じように海岸から脱出しようとする人を気絶させる、というわけです。
製薬会社はどうやって実験対象をアナミカ海岸に連れてきたか
アナミカ海岸のリゾート・ホテルは製薬会社・ウォレン&ウォレンの施設の一部です。
製薬会社は患者の情報を彼らが処方された薬を受け取るときに集めています。この情報をもとに、製薬会社は治験の候補になる患者の家族に破格の値段で豪華リゾートの休暇を持ちかけるのです。
それにつられた一家がホテルに到着すると、製薬会社は治験薬を歓迎カクテルに混ぜて患者に飲ませ、翌日老化が加速する海岸に連れて行きます。
その目的は新薬の臨床試験の期間を短縮化することです。アナミカ海岸なら数十年かかる長期観察も1日で終えられます。
例えば、パトリシアが飲まされたてんかんの発作を抑制する薬は海岸で8時間17分間効果がありました。これは現実の世界では16年6カ月に相当するため、新薬は大成功であったと研究スタッフが大喜びしています。
このように、海岸に招待された客はすべて製薬会社の実験台です。実験に従事する科学者たちは、このことで多くの人命が救われるため、無関係な家族の犠牲もやむを得ないと納得しています。
ホテルが家族全員のパスポートを預かっているため失踪しても疑われない、と映画の中では説明されており、今回が何と73回目の実験です。
映画『オールド』のネタバレ解説・考察2:全死亡キャラの死因一覧
以下に映画『オールド』で死亡する登場人物の死因を一覧表で紹介します。
- ガイ:老衰
- プリスカ:老衰
- チャールズ:プリスカに錆びたナイフで刺された傷から入った細菌による敗血症
- クリスタル:低カルシウム血症による全身骨折、クリスタルという名前や壊れやすいことは「ミスター・ガラス」の引用です
- カラ:崖から転落死
- アグネス:心不全
- ジャリン:溺死
- パトリシア:てんかん発作による窒息死
- ミッド=サイズド・セダン:チャールズが刺殺
- ミッド=サイズド・セダンの連れの女:溺死
映画『オールド』のネタバレ解説・考察3:原作グラフィック・ノベルとの違い
映画がサスペンスの演出を強調しているのに対して、原作グラフィック・ノベルは海岸で急速に老人になっていく人たちのリアルな描写に焦点が置かれています。思春期を迎えた子どもと親の関係、孫ができたときの喜びと困惑、自分やパートナーの老いの問題、残された時間の生き方、といった身近なことがリアルに描かれています。
原作にはっきりとした結末はない
M.・ナイト・シャマラン監督も指摘していたように、原作グラフィック・ノベルには明確な結末はありません。
何故海岸で加齢が加速するのか、遠くから見張っている人間は誰か、と言った疑問についても、いくつか推測されますが、答えはわからないまま。すべて読者の想像にゆだねられています。
すべての物語は海岸で展開される
映画で見られる立派なリゾートホテルは原作グラフィック・ノベルにはありません。
当然原作では怪しげなリゾート・マネージャも出てきません。しかし、ホテルの支配人の甥が海岸にいる人たちのところへ何か伝えようと走ってくる途中で射殺される場面があります。
海岸で何か恐ろしいことが起きていることを彼がうすうす感づいている点は映画と共通です。
家族構成が違う
海岸に来る人たちの家族構成も原作グラフィック・ノベルは映画と少し異なっており、登場人物間の化学反応も変化します。
最大の違いは映画でチャールズの一家にあたる家族には、カラの下にもうひとり男の子がいることです。
原作グラフィック・ノベルではこの男の子が、映画のマドックスにあたる女の子と仲良くなって子どもが生まれます。
一方、原作グラフィック・ノベルでカラに当たる女の子は反抗的で奔放な子で、父親が嫌う黒人(グラフィック・ノベルではアルジェリア人)と仲良くなります。そのときカラのようにならない対策も忘れないマセぶりです。さらにこの女の子はトレントに当たる男の子が、ガールフレンドなしに死にたくない、と言うので、彼とも仲良くなります。
こういった点は、グラフィック・ノベルの原案を考えたフランス人のモラルを反映していると言えるでしょう。
また、映画でジャリンに当たるカップルには、奥さんの父親のSF作家が一緒にいますす。映画でトレントたちが見つけるSF作家のノートは、グラフィック・ノベルのこの人物へのオマージュです。
海岸で生まれた赤ん坊は死なない
映画と異なり原作グラフィック・ノベルでは海岸で生まれた赤ん坊は死なないで成長します。
このため結末もグラフィック・ノベルは映画と異なります。
死因が違う
前述のように映画の登場人物たちは刺殺されたり、崖から転落したり、体中の骨が折れたりとかなり凄惨な死に方です。これに対してグラフィック・ノベルの登場人物はほとんど病気や老化によるおだやかな自然死です。
ミッド=サイズド・セダンに相当するアルジェリア人も殺されることなく、子どもたちに次に紹介する寓話を聞かせます。
王様と死神の寓話が映画にはない
その話とは、死神の訪問を受ける王様の話です。
昔々あるところに王様がいました。ある日、王様のところに死神がやって来ます。まだ死ぬ準備の出来ていない王様は死神に猶予を求めました。死神は今から7年の間にまた来ると言って去っていきます。
死神が帰った後、王様は堅固な城を築いて、そのなかに立てこもり、誰も入れてはならないと命じます。妻子でさえも王様にお目通りを許されません。
7年後、厳重な警戒にもかかわらず死神が王様のもとを訪れます。死んだら自分はどこへ行くのだ、と死神に問う王様。死神は王様に「お前が自分で作った墓に行く」と答えます。
自分は墓など作っていない、といぶかる王様。死神は「お前の作った城が墓で、お前はそのなかに7年もいたではないか」と言いました。
そのとき王様はこれまで妻子の面会も拒んできたことを思い出し、小さな窓の外に目をやります。そこには頂点に雪が積もった山が見えます。
王様は人生で一度も本物の雪に触れたことがなかったことに気づき、一粒涙をこぼして息絶えるのでした。
翌日生き残っているのは1人だけ
原作グラフィック・ノベルでは、翌日の朝生き残っているのは海岸で生まれた女の子ひとりだけで、彼女は大人になっていました。
彼女は誰もいない海岸で砂のお城を作り始めます。この後、グラフィック・ノベルは彼女の身に何が起きるかは一切描かれずに終わります。
映画『オールド』のネタバレ解説・考察4:ジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドが共演した映画『ミズーリ・ブレイク』の意味
映画のなかで精神に異常をきたしたチャールズが必死に思い出そうとするジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドが共演した映画のタイトルは『ミズーリ・ブレイク』です。
この西部劇は『オールド』のストーリーとは何の関係もありませんが、シャマラン監督の特別な思い出のある作品です。
シャマラン監督はこの映画を観たことがないそうですが、すこしボケてきたシャマラン監督のお父さんが「ジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドが共演した映画」の話を始めて止まらなくなったことがあったとか。そこでシャマラン監督は、「父さん、その映画の話を続けるなら、そのことを映画に使うよ」と言ったそうです。
シャマラン監督はFOX5 Washington D.C.のインタビューで、この話は人間が正気を失わないために何かにすがりつくことを象徴するものであると説明しています。ジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドというアメリカを代表する2人の名優が共演した映画を観たことがない人がいることが理解不能。にもかかわらずその映画にこだわり続ける父と映画の、「すこしおかしく、悲しく、美しい」話である、とシャマラン監督は語っています。
映画『オールド』は美しい風景と国際的キャストが魅力
この記事ではM.・ナイト・シャマラン監督の映画『オールド』のあらすじや登場人物をネタバレも含め徹底的に解説・考察しました。
映画『オールド』はシャマラン監督が初めて外国で撮影を行った作品で、ドミニカの美しい風景が印象的です。
メインキャストにアメリカ人ばかりでなく、イギリス人、メキシコ人やルクセンブルク人を採用したことで、国際的観光地の雰囲気がよく出ています。
プロットに少し難があるかもしれませんが、このような魅力が短所を上回っている作品と言えるでしょう。
2021年10月、シャマラン監督の次の映画のタイトルと公開日が早くも発表されました!
シャマラン監督の新作『ノック・アト・ザ・キャビン(原題)』についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。