ディズニー実写版『ムーラン』の予告編とあらすじ
『ムーラン』は、中国の伝承文芸・歌謡文芸で語り継がれてきた物語のヒロインの名前です。老病の父に代わって男装して蛮族征伐に従軍、自軍を勝利に導いて帰郷するというストーリーです。
それでは本作の予告編から早速見ていくことにしましょう。
ディズニー実写版『ムーラン』予告編
ここでは日本版より再生時間の長いアメリカ版の公式予告編とファイナル予告編をあげておきます。
公式予告編(2分24秒)では、冒頭から強く美しい「不死鳥(女性)」が本作のテーマであることが強調されています。
次はファイナル予告編(2分3秒)です。本作の見どころと言える華麗な風景やアクションシーンを少し見ることができます。
あらすじ
ディズニープラスの作品紹介
ディズニープラスの作品紹介では、本作のあらすじは次のように説明されています。
国家の命運をかけた戦いを前に、すべての家族から男性を一人、兵士として差しだす命令が下る。ファ家のひとり娘、ムーランは、家族で唯一の男性である病気の父親を守るため、男性と偽って戦地へ赴く。ファ家の守り神で、ちょっと風変わりな“不死鳥”に見守られながら、やがてムーランは戦士としての才能を開花させていくが…。
上官や仲間たちとの友情の絆や、敵軍に仕える美しき“魔女”との宿命の出会い…明日の命も知れぬ闘いの果てに、ムーランを待ち受ける運命とは? そして、“本当の自分”と“偽りの自分”の間で葛藤する彼女が、最後に下す決断とは…?
次にネタバレですが、少し説明を補足しましょう。
ムーランと父親は中国武術「気」の使い手
本作でムーランは、幼少の頃から男の子のように活発で、武術「気」の才能のある女の子として描かれています。
またムーランの父親は、今でこそ足が不自由ですが、かつては勇敢な兵士として従軍しており、家には当時の甲冑と刀を大切に保管している武人です。ムーランに「気」を教えたのもこの父親で、彼は本作全体の語り手でもあります。
鳥に姿を変える「魔女」が重要
そして敵軍であるフン族に仕える美しき「魔女」は、アニメ版のハヤブサをモチーフにした、本作では非常に重要なキャラクターです。彼女は、人並みすぐれた才能の持ち主だったために「魔女」として差別されたことから、安住の地を求めてフン族に仕えるようになったのでした。
彼女は、中盤の合戦の最中にムーランと一騎打ちをして、自分と境遇の似たムーランに、「偽りの自分」を捨てて「本当の自分」を明かすよう迫ります。さらに最後はムーランの身代わりになって矢で射抜かれるという悲劇的なキャラクターになっています。
- 【原題】 Mulan
- 【上映時間】1時間55分
ディズニー実写版『ムーラン』のキャスト、スタッフ
次に、本作のキャストとスタッフを紹介しましょう。
キャストは、中国や香港の新旧実力派の俳優が揃った豪華なものです。
一方、スタッフは監督以下英語圏の白人で固められています。このことで本作は、最終的に中国的と言うより、モダンな色彩の強い仕上がりになったと言えます。
キャスト
カッコ内は日本語吹き替えの声優です。
- ムーラン / リウ・イーフェイ(明日海りお): 本作のヒロイン
- シェンニャン / コン・リー(小池栄子): フン族のリーダー・ボーリー・カーンに仕える「魔女」。鳥などに姿を変えることができる。
- ボーリー・カーン / ジェイソン・スコット・リー(咲野俊介): フン族のリーダー。アニメ版のシャン・ユーに相当。中国皇帝の命を狙っている。
- 皇帝 / ジェット・リー(広瀬彰勇): 中国の皇帝。ボーリー・カーンの父親を倒したことから、カーンの恨みをかった。終盤ではカーンとの一騎打ちに向かうほど武術にもすぐれている。
- タン司令官 / ドニー・イェン(井上和彦): フン族の討伐隊の隊長。かつてムーランの父親も彼のもとで戦ったことがある歴戦の強者。
- ホンフイ / ヨサン・アン(細谷佳正): フン族討伐隊の兵士。タンとホンフイはどちらもアニメ版のリー・シャンにあたるキャラクターですが、ムーランとの恋愛はほとんどありません。
- ズー / ツィ・マー(原康義): ムーランの父親。本作のナレーター
主役のリウ・イーフェイは、中国出身でアメリカに渡った女優で、中国で武侠ドラマに出演するなどアクションもこなしています。
一方、「魔女」を演じるコン・リーは、1980年代から90年代にかけて張芸謀などの作品で活躍した、中国映画を代表する大ベテラン女優。
ジェット・リーやドニー・イェンもアクション映画のベテラン。特にドニー・イェンは、本作では武術の型を披露するなど若手に負けない活躍ぶりです。
スタッフ
ディズニーは、本作には中国系の監督を当初希望しており、アン・リーなどに打診したそうですが断られ、最終的にニキ・カーロの起用が決まりました。
- 監督:ニキ・カーロ
- 脚本:エリザベス・マーティン、ローレン・ハイネック、リック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァー
- もとになった話:花木蘭の伝説
なおスタント・コーディネーターは、『007 スカイフォール』などのスタントや『スノーホワイト/氷の王国』(2016年)などでスタント・コーディネーターも務めた、ベン・クックです。
アニメ版『ムーラン』との違い
それでは、いよいよ気になるアニメ版『ムーラン』との違いを説明しましょう。
最初に結論を言いますと、アニメ版がコメディの要素も多いミュージカルであったのに対して、本作は実写アクション映画であるということです。
対象となる観客も、アニメ版は全ての年齢層で鑑賞可能(G)であるのに対して、実写版はアメリカでPG-13(13歳未満の子どもの観賞については、保護者の厳重な注意が必要)となっており、実質的に中学生以上になっています。
ミュージカル要素の廃止
カーロ監督は、アニメ版『ムーラン』の歌曲は、本作をリアリスティックなものにしたかったため使用しなかったと説明しています。さらに同監督は、前作の音楽を尊重しようと思ったが、オリジナルの音楽を使うシーンが思いつかなかったとも語っています。このため本作では、アニメ版の歌は劇中で一度も使われません。
本作で唯一の歌は、アニメ版のエンドクレジットでクリスチナ・アギレラが歌った「リフレクション(Reflection)」。本作ではアギレラによる新録音で前作同様エンドクレジットに使われています。ちなみにこの歌の中国語版は、「自己」というタイトルでリウ・イーフェイが吹き込みました。日本語版では城南海の「リフレクション」です。
ムーランのキャラクターがリアルになった
リアルな実写アクションを目指した本作では、ムーランのキャラクターもリアルで身近なものになっています。
プロットも、男勝りの武術の才能のあるムーランが、男性社会の偏見に打ち勝ってリーダーとなり伝説になるという、女性の社会進出を反映したものです。
細かいところでは、女であることがばれないようにシャワーも浴びないムーランが、仲間の新兵たちから「臭うぞ」と指摘されたりします。
ムーシューやリー・シャンがいない
リアルさや最近のセクハラ撲滅運動を意識して、オリジナルのアニメ版のキャラクターで本作には登場しないものがいくつかあります。
例えばアニメ版に登場する、人気者のしゃべるドラゴンでムーランのサイドキックであるムーシューは登場しません。これはムーシューのキャラクターが中国で評価がよくなかったことも一因だそうです。
またアニメ版でムーランと恋愛関係になるリー・シャンのキャラクターも本作では削られています。このことについてプロデューサーのジェイソン・T・リードは「司令官と性的恋愛関係の対象が同じというのは非常に都合が悪く、適切でないと考えた」と語っています。
これに対して、リー・シャンと男装のムーランの関係をバイセクシュアルと見なしていたLGBTQのコミュニティーから批判が殺到。驚いたリードはリー・シャンのキャラクターがLGBTQのアイコンになっていたことを認めざるを得ないことに。さらにリー・シャンのキャラクターはタン司令官とホンフイの2人に分けられた、と説明しています。
ディズニー実写版『ムーラン』の見どころ
アニメ版との違いを解説しましたが、今度は本作の際立った特長をいくつか紹介しましょう。
最初に、本作は女性監督としては史上最大規模の予算を投じた、豪華な作品であることを指摘しなくてはなりません。
またドニー・イェンなどのベテランアクション俳優をはじめ、多くのキャラクターのアクションシーンがふんだんにあることも、重要なポイントです。
ディズニー映画では珍しい女性監督
本作の見どころとしては、ディズニー映画としては『リンクル・イン・タイム』(2019年)に続いて2回目の女性監督が起用されたことをまずあげることができます。
ニキ・カーロは1966年ニュージーランド生まれの監督で、『クジラ島の少女』(2002年)や『ユダヤ人を救った動物園〜アントニーナが愛した命〜』(2017年)が代表作。特に長編デビュー作の『クジラ島の少女』は、サンダンス映画祭の観客賞などを受賞しています。
この『クジラ島の少女』という作品は、ニュージーランド・マオリ族の少女が、さまざまな試練を乗り越えて代々男子が継ぐことになっている族長になる物語。少女が自らの使命を自覚して大人の女性に成長していく過程を描いた点は、実写版『ムーラン』と共通しています。
ちなみに今回の実写版『ムーラン』の製作費約2億ドルというのは、女性監督としては史上最大規模だそうです。
セットや風景が素晴らしい
巨額の予算を投入しただけのことはあって、セットも色彩豊かでとても豪華です。序盤で仲人さんに会うためにムーランが化粧をするシーンは、女性監督ならではの色彩感覚のある演出と言えます。また最後に宮廷でムーランが皇帝に謁見するシーンも、皇帝以下居並ぶ人たちの衣装が豪華です。
一方、中盤のクライマックスである蛮族と皇帝軍の合戦シーンは、広大な平原で本物の馬をたくさん使った迫力あるものです。本作はニュージーランドと中国で撮影を行っており、全編を通じて豊かな自然の映像が強く印象に残ります。
大画面で最大の効果を発揮する作品と思えるだけに、アメリカはもとより、日本やドイツでも劇場公開が中止になったことは悔やまれます。
息をのむアクション
最後に、本作の特長としては何と言っても実写アクションが素晴らしいことをあげなくてはならないでしょう。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズや『グリーン・デスティニー』を想起させる、中国アクション映画お得意のワイヤーアクションは言うまでもないこと。大平原を存分に使った大規模な合戦シーンも、演出が効果的で息を飲みます。
演出はモダンですが、『侠女』のような1970年代〜1990年代の中国武侠映画のファンも気に入るのではないかと思います。
公開後3カ月の間に追加料金無しの配信や、ソフトの発売も開始!
本作は、2020年9月にアメリカを始め世界各国で、ディズニープラスのデジタル配信で公開されました。購入には月額利用料に加えて、アメリカで29.99ドル(約3,200円)、日本で2,980円(税別)のプレミアアクセス料金が別途必要でした。
一方、この販売方針に反対の強かったフランスでは、公開日を遅らせてディズニープラス利用者全員に無料で配信しています。
日本やアメリカなどでは2020年12月初旬から追加料金無しの配信が開始。さらに自宅で最高の画質と音質で楽しみたい方にはブルーレイが発売されています。