ドイツ銀行、投資銀行部門トップ・リッチー氏退社の意味すること

2019年7月6日土曜日

ドイツ 経済

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ドイツ銀行のクリスティアン・ゼービング代表取締役会長は2019年7月5日、投資銀行部門トップで代表取締役副会長のガース・リッチー氏が2019年7月末に退社することを発表しました。投資銀行部門の統括には当面の間ゼービング氏があたります。

7月7日に臨時の監査役会が開かれ、その席でさらなる決定が下されるとの情報もあります。問い合わせに対してドイツ銀行は肯定も否定もしませんでした。このニュースの背景にあるドイツ銀行の抜本的組織再編に関する情報をまとめてみました。


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7月7日、ドイツ銀行の監査役会は大幅人員削減と投資銀行部門の切り離しを骨子とする再建策を承認しました。今回の再建策の概要と成算について解説します。





謎に包まれた抜本的組織再編計画

2018年4月に代表取締役会長に就任したゼービング氏は2019年5月末に開かれた株主総会で、大幅な人員削減と利潤の大きい部門への集中化を打ち出しました。このとき具体策については後から発表するとしました。

15,000人から20,000人規模の人員削減

人員削減に関しては、数年間にわたり15,000人から20,000人が削減されると現在関係者の間で噂されてます。ドイツ銀行の全世界での従業員数は91,500人で、このうち41,600人がドイツで働いています。2017年末からすでに7,000人の人員削減が行われました。

郵便銀行と投資銀行部門が対象

現在人員削減が噂されているのは、郵便銀行(Postbank)関連と投資銀行部門です。現在吸収が進行中の郵便銀行では2,000人の人員削減が噂されています。

投資銀行部門は現在17,100人のフルタイム社員を抱えており、この部門で特に大幅人員削減が噂されています。アメリカ合衆国だけでも9,300人がフルタイムで働いており、すでに退社を視野に入れ始めた社員も多いとの情報があります。


投資銀行部門の抜本的再編を計画か?

投資銀行は長年に渡って出費が多い割には利益を生まないと批判されてきました。ここ数年間数十億ユーロにのぼる罰金を支払わなければならなかったことが大きな足かせとなっており、今年に入っても競合する米国企業に大きく水を開けられています。

投資銀行部門の問題:高額の報酬

一方で投資銀行部門の社員は高額給与に加えて多額の賞与を得ており、2010年以来総額230億ユーロが賞与として支払われています。

トップ・マネージャーへの給与の支払いだけでも昨年、2,970万ユーロから5,570万ユーロへとほぼ倍増しました。今回退社が決定したリッチー氏には2018年に800万ユーロを超える報酬が支払われています。

晴れないマネー・ロンダリング疑惑

リッチー氏の他に、個人顧客部門トップのフランク・シュトラウス氏や、監査規則の遵守を統括するシルビー・マテラート氏も退社が噂されています。この背景としては、ドイツ銀行がマネー・ロンダリング防止規則に大幅に抵触していた疑いが晴れないことが特にあげられます。

20年来の抜本的組織改革

今回の取締役会の人事刷新は投資銀行部門の組織再編と関連したものであることは明らかです。決済銀行部門と関連して大口顧客むけの支払い業務を含む新しい部門が誕生することが予想されています。

この組織再編は1998/99年に、ドイツ銀行が米国バンカーズ・トラストを買収して国際的投資銀行事業に進出して以来の、抜本的組織改革となる模様です。


人員削減の業績への影響は限定的

2019年6月中旬にドイツ銀行はこれまで3回失敗していた米国のストレス・テストに合格しました。今回の人員削減によって、ドイツ銀行は今年再び赤字になる可能性が出てきました。

人員削減のコスト:30億ユーロから50億ユーロ

人員削減のコストは30億ユーロから50億ユーロにのぼるとみられています。役員解任による違約金等の出費も大きいです。

新たな増資の必要なし

これまでのところアナリストの平均で、2019年のドイツ銀行の経常利益は2018年の2億6,700万ユーロから9億5,100万ユーロへと大幅増加するものとみられていました。このためドイツ銀行は今回の人員削減と組織再編を、新たな増資を伴わずに実行できる体力があるとみられています。

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