7月7日、ドイツ銀行の監査役会は大幅人員削減と投資銀行部門の切り離しを骨子とする再建策を承認しました。
同時にゼービングCEOは「ドイツ銀行の持つ可能性を十分に引き出すために必要なあらゆることをなす」との決意を表明しました。
ここではドイツ銀行の再建策の概要と成算について解説します。
ドイツ銀行の経営再建策:その概要
今回の再建策に関してペーター・アルトマイアー経済相は「ドイツ銀行は一軍プレーヤーで、一軍にとどまるためのかじを切った。経営再建は成功すると楽観視している」との見解を示しました。2022年までに1,800人の人員削減:74億ユーロの費用
ドイツ銀行は2022年までに世界総行員数の約5分の1に相当する18,000人の人員削減、投資銀行部門の約3分の1の分離、国際株式取引からの完全撤退といった経営再建策を発表しました。ドイツ銀行は経営再建の費用として、2022年までに74億ユーロ(約9,000億円)を見込んでいます。
投資銀行部門の大幅縮小
投資銀行部門の大幅縮小に関しては、ヘッジファンドなどの大口顧客を対象に行なっていた国際株式取引から完全に撤退し、顧客にとって重要性の高い、例えば国外に商品を輸出するコンツェルンの支払業務を行うといった業務に専念するとしています。人事交代
役員の人事に関しては、7月5日に退社が発表された投資銀行部門トップのガース・リッチー氏のほかに、個人顧客部門トップのフランク・シュトラウス氏と監査規則の遵守を統括するシルビー・マテラート氏が今月末に退社することが発表されました。シュトラウス氏の退社は郵便銀行(ポストバンク)の吸収が順調に進まなかったことが原因とみられています。またマテラート氏はマネー・ロンダリング疑惑の責任を負わせられたようです。
一方9月1日から3人の役員が取締役会に加わります。ソフトウェア会社SAP出身のベルント・ロイケルト氏がデジタル化担当役員に、監査役会からシュテファン・ジモン氏が監督官庁担当役員に、アメリカ人のクリスチアーナ・レイ氏がアメリカ担当役員にそれぞれ就任します。
ドイツ銀行の経営再建策の目的:コスト削減
今回のドイツ銀行の経営再建策の大きな目的は、コストの削減にあります。
年間60億ユーロのコスト削減
ドイツ銀行は2022年までに一年間あたりのコストを60億ユーロ削減して、170億ユーロにすることを計画しています。別の言葉で言いますと、現在1ユーロを稼ぎ出すのに90セント以上のコストが必要であるのを、70セントのコストにまで削減することであると説明しています。
増資は行わない
今回の経営再建策をドイツ銀行は自力で行うとしており、増資の予定もないとしています。しかしながら、今年と来年は無配当になります。
同時に今回の経営再建策により、ドイツ銀行は再び赤字に転落することになります。このため第2四半期は税引き前で5億ユーロ、税引き後で28億ユーロの損失になるとの見通しです。今回の再建策がなかった場合、1億2,000万ユーロの経常利益が見込まれていました。
バッド・バンクの設立
さらにドイツ銀行は740億ユーロ相当の不良債権を「バッド・バンク」に移し、その大部分を「効率よく」処分する、つまり売却する予定です。
商業銀行部門の設立
同時にドイツ銀行は支払業務とドイツ企業向けの業務を統合して「商業銀行(Unternehmensbank)」の名称のもとに新たな部門を設立するとしています。
ドイツ銀行の経営再建策:成功の見通し
今回の経営再建策でドイツ銀行はヨーゼフ・アッカーマンCEO時代の米国投資銀行と対等に渡り合うという路線を完全に放棄しました。
ドイツ銀行はこの間、危険な賭けに手を出し、金融機関が遵守しなければならない規則をないがしろにして罰金を課せられてきました。その一方で取締役会を含めてトップは法外な報酬を手にしていたのです。
1年3ヶ月前にCEOに就任したゼービング氏もようやくドイツ銀行の危機の根深いことを悟ったようです。しかしながらそのゼービング氏も、ドイツ銀行が中長期的に収益回復を達成できるような具体的計画を明示していません。
ドイツ銀行はこの間、危険な賭けに手を出し、金融機関が遵守しなければならない規則をないがしろにして罰金を課せられてきました。その一方で取締役会を含めてトップは法外な報酬を手にしていたのです。
1年3ヶ月前にCEOに就任したゼービング氏もようやくドイツ銀行の危機の根深いことを悟ったようです。しかしながらそのゼービング氏も、ドイツ銀行が中長期的に収益回復を達成できるような具体的計画を明示していません。
「商業銀行」は成功するか?
「商業銀行」部門を新たに設立したからといって、企業はドイツ銀行に戻ってくるでしょうか。外国との取引を行うのにドイツ銀行が絶対に必要というわけでもないでしょう。ヨーロッパの金融機関でそのようなサービスを行っているところは多数あります。
一時期吸収合併が何度も噂されたコンメルツ銀行でさえ、今やドイツ銀行の半分の行員でドイツ銀行を上回る利益をあげています。
競争の厳しい個人顧客業務
個人顧客業務に関しても従来の支店を中心にした業務は見直しが必要でしょう。オンラインバンキングの発達ですでに支店での取引は減る一方です。
さらに個人顧客に密着したカウンセリングは、地元に昔からある貯蓄銀行(Sparkasse)のような金融機関のほうが有利です。不動産融資などはこういった金融機関のほうがドイツ銀行よりも安価に提供しています。
仮想通貨の競争激化
口座振込のような業務も仮想通貨の浸透で競争が厳しくなっています。ソフトウェア会社SAP出身のベルント・ロイケルト氏をデジタル化担当役員に起用したことは、このような状況に対応するためでしょう。130億ユーロの資金をデジタル化に投入するとしています。
しかしながらドイツ銀行の陥った危機は根深く、ここから脱出するには何年もかかるでしょう。3年間で8%の収益率の達成はかなり楽観的なものと言わざるをえません。
監査役会の責任は?
ドイツ銀行が危機に陥っていく間、事態を放置していた監査役会の責任が問われないというのも看過できません。
取締役会会長のパウル・アハライトナー氏はすでに7年間その職にありながら、ドイツ銀行の経営改善に何ら寄与することがなかったことは、重くみられるべきです。