微妙なバランスの上に立つ独仏同盟:2019年パリ祭前後の欧州連合情勢

2019年7月15日月曜日

ドイツ 政治

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フランス・パリ祭のアルファジェット

2019年のフランス革命記念日・パリ祭にはドイツのメルケル首相も参列し、コンコルド広場で他のEU首脳と共に恒例のパレードを見学しました。今年のパリ祭は内外に独仏を軸にした欧州の結束を印象付けようとする演出が目立ちました。欧州委員会委員長信任投票を控えた2019年7月の欧州情勢についてまとめてみます。


欧州の結束を強調する独仏首脳

メルケル首相とマクロン大統領には、最近になって健康状態に関する不安が浮上してきています。しかしながら今回のパリ祭で両首脳は、その噂を打ち消してヨーロッパの結束をあらためて印象付けようと努力していました。

ドイツ・メルケル首相

ドイツのメルケル首相は2019年6月から7月にかけての1ヶ月の間に、少なくとも3回、公の席で震えが止まらなくなったことが確認されています。

7月10日にフィンランドの首相を迎えた栄誉礼で国歌演奏中に震えだしたことが映像で確認できます。しかしながらその直後に歩き出したときには、特に体調が悪い様子はありませんでした。

7月11日にデンマークの首相を迎えた際は、式典の一部を座って過ごしました。

健康状態についてあらためて問われたメルケル首相は「わたくしは自らの職務の責任は承知しており、わたくしの健康に関しても責任ある行動をとるつもりであると、ご理解下さい。また人間ですから健康であり続けることに個人的関心を持っており、十分留意していることも確かです」と語って、不安の払拭に務めました。

メルケル首相の健康状態に関してはすでに2018年夏ごろから不安が囁かれていたのですが、与党、政府ともに沈黙を守っています。

今回のパリ祭でメルケル首相は2時間のパレードを一部は立って鑑賞した後、マクロン大統領と共に退役軍人に挨拶しにゆきました。さらにその後ドイツ大使館まで10分ほどの道のりを歩いて行き、大使館到着後は立ったまま記者団に対して、マクロン大統領とその他の欧州首脳に感謝の意を表すコメントを発表しました。

フランス・マクロン大統領

メルケル首相ほど大げさに報道されていませんが、マクロン大統領の健康状態についても憂慮する声があります。

フランス政府は大統領の健康状態に関する情報は伝統的にほとんど公表しません。ミッテラン大統領は退任後程なくして亡くなるほど健康状態は悪化していましたが、フランスの大統領府がミッテラン大統領が病気であることを伝えたのは、1992年に手術を受けたときぐらいでした。

マクロン大統領の健康状態に関しては2018年末にイエローベストのデモが最高潮に達していたときに、痩せすぎているのではないか、顔色が悪いと噂されました。ストレスのため不眠であるという話もありました。

しかしながらフランス政府はこれまでと同じように大統領の健康状態については特にコメントしていません。

一方マクロン大統領は今回のパリ祭にあたり持論の「欧州統合軍」の必要性をあらためて主張しました。この構想は欧州諸国が協力して軍隊の調達から、指揮系統や作戦に至るまで共同して行うようにしようとフランスが呼びかけているものです。

メルケル首相はこの提案に関して、「欧州の防衛政策に対する偉大なジェスチャーだと思います。欧州の協力を強化する象徴です」と述べて、マクロン大統領との連携を強調しました。


微妙なバランスの上に立つフォン・デア・ライエン氏の欧州委員会委員長信任投票

2019年7月16日に欧州委員会委員長を決める欧州議会の信任投票が行われることが確定しています。このポストにはドイツからウルズラ・フォン・デア・ライエン防衛大臣が候補になっています。

フォン・デア・ライエン氏はマクロン大統領らと同じく、欧州統合軍構想に積極的で、親EU派で通っています。

しかしながらこの人事には、緑の党と左派勢力がすでに反対の意を示しています。そこでフォン・デア・ライエン氏承認をめぐる欧州議会の情勢を見てみます。

欧州委員会委員長承認に必要な議席

欧州委員会委員長は欧州議会の過半数による信任が必要とされています。現在承認に必要な議席数は376議席です。

フォン・デア・ライエン氏やメルケル首相の所属する中道右派が182議席です。これに、中道左派の154議席とマクロン・フランス大統領の中道リベラル派の108議席が加わると444議席になります。このブロックがフォン・デア・ライエン氏を支持するグループです。

しかしながら中道左派の内部からは、60人から65人の造反者が出るのではないかとの話が社民党有力筋から漏れています。この造反者を引きますとこのブロックは379議席から384議席ぐらいに減少し、これ以上の造反者は出せないことになります。さらに中道リベラル派からの造反者も計算に入れると、他のグループからの支持がどうしても必要になってきます。

鍵を握る右派勢力

そこでフォン・デア・ライエン氏承認のキャスティング・ボートを握る可能性が生じてきたのが、ポーランドやハンガリーの国家主義政党が多数を占める右派・EU懐疑派グループの62議席です。さらにイタリアの政権与党「同盟」とドイツの極右AfDからなるグループからの支持も必要になる可能性が出てきました。

こういった勢力からの支持を受けてのフォン・デア・ライエン氏就任となりますと、あまり「きれいなスタートではない」との見方を示した欧州連合政治家筋もいました。

フォン・デア・ライエン氏が信任されなかったときの代案は?

欧州委員会委員長候補が欧州議会で信任されなかった場合は、欧州連合(EU)加盟国首脳で構成される欧州理事会が、1ヶ月間以内に次の候補を推薦することになっています。

ところで今回のフォン・デア・ライエン氏の人事は、その他のEU重要ポストを含めてまとめられた提案の一部です。ドイツは欧州委員会委員長を取ったので、欧州中央銀行(ECB)総裁のポストはフランスに譲ることで妥協しています。

さらに、この人事案の一環ですでに欧州議会議長には中道左派からイタリアのサッソリ氏が決定しました。その上欧州理事会議長には、中道リベラル派がベルギーのミシェル氏を出すことが決まっているため、会派バランスの都合上、欧州委員会委員長はどうしても中道右派から出さねばならないことになります。

したがって、もしもフォン・デア・ライエン氏が承認されなかった場合の代替候補選びは難航するものと見られています。


今後も目の離せない欧州議会

欧州議会の票の読みにくいところは、各会派が異なる国の政党から構成されていることで、必ずしも一枚岩ではないことにあります。ドイツ国内で大連立に不満を募らせているドイツ社民党(SPD)がフォン・デア・ライエン氏批判の先頭に立っていることが、このことを如実に表しています。

フォン・デア・ライエン氏の信任投票に始まり、今後の欧州議会ではこれまで以上に会派間の多数派工作が重要かつ複雑になってくるでしょう。

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